葉桜 狂ゆや | ナノ
淡く色付いた花を静かに見つめる。
花びらを通して何を想っているの?
「お茶呑む?」
幹に寄りかかり、一人桜を眺めていた狂にゆやが縁側から問う。
「酒」
「却下」
今呑むなら夜はなしよ、と当然のように言い放つ。
ゆやに聞こえないように、狂は小さく舌打ちした。
「そろそろ葉桜ね」
草履を履いて、ゆやも狂の傍らに立つ。
そして、幹に手をつき桜を見上げた。
「……」
狂が目に入ったのは、白く細い項。
「桜の時期って…ホント早い」
「……」
後ろから手を伸ばし、捕らえる。
「きゃっ、…何?」
一瞬驚いたゆやだが、すぐに狂の腕に手を添える。
擽ったそうに首を竦めながら。
手を伸ばせばすぐ届く距離にぬくもりがある。
…手放せなくて必死になる想いは、今ならわからなくもない。
「んっ…!」
白い項に、サクラ色の痕を残す。
「ゃ…ちょ、ちょっと!バカっ…」
紅くならないよう軽く、いくつも。
「だぁー!!アンタって人は!!昼間っから!!」
真っ赤になって怒ったゆやは、頭を降って振り払う。
「知ってる?桜の花言葉は『純潔』よ。桜の前でくらい清くなりなさい!」
クルリと身を返し、正面から向き合って告げる。
「それにあともう一つね…」
思い出したようにふわりと笑い、ゆやが話そうとした時。
「来るぜ」
「え?」
狂の視線が家の中へ向かう。
「店にいないと思ったら…こっちでイチャついてたんだな」
「わっ!!」
驚き離れるゆやと、その反応に口角を吊り上げる狂。
「すみません。お邪魔させて頂きました」
それは家に上がったことか?それとも…。
「プリン食べに来たんだけど、今日は店休みなのか?」
鬼眼の狂がいるから?と、意地悪く笑う。
「…気付いてたの?」
ゆやはジト目で狂を睨む。
彼は愉しげに目を細めるだけだった。
桜のもう一つの花言葉は、「あなたに微笑む」。
いつの日も、ずっと。
彼らのサクラは決して散らない。
******
鬼眼さんが朔夜の項見て「……」ってなってたシーンを思い出したら…こうなりました。
春は新たな旅立ちの季節。
桜はそれを応援するために咲くのかも?
今年は満開の桜より葉桜に目を惹かれたのでこんな話に。
3カップル詰め込んでみました。
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