袴と白無垢と口紅と | ナノ






倖せを歌いましょう。

あなたと私と…たくさんの仲間達と。





【袴と白無垢と口紅と】





「狂!いつまで寝てるの!?起きて!」
「……」
布団からたたき起こされた狂は、ゆっくりとした仕草で煙草に手を伸ばし、火をつける。

「今日はトラと真尋さんに呼ばれてるんだから…早く支度しないと…」
狂から引っ剥がした布団を畳む手は止めず、せかせかとゆやは言う。


そうなのだ。

日頃店のやりくりと狂の世話(?)で忙しいゆやを労ったのか、二人は一泊二日の温泉旅行に招待された。
かなり値の張る高級旅館で、最初は申し訳ないとゆやは断っていた。
しかし、いやいやせっかくだからと、紅虎と真尋だけでなく、色んな仲間達に説得された。
ゆやだって、ホントはすごく魅力を感じていたので、ならお言葉に甘えて…と承諾した。
押し切られてからは、この日をとても楽しみにしているようだった。

「洗濯終わったら出発するからね!」

ゆやは頗る機嫌がいい。



***



「狂はーん!ゆやはーん!」
旅館の前で二人が出迎えてくれた。

「トラ!真尋さん!」
「……」
「お待ちしてました」
「もうワイ待ちくたびれたわ〜」
わいわいと近況や世間話をしつつ、今夜の狂とゆやの部屋へと案内される。

大きな入り口のあった宿の本館から奥へと続く廊下を通ると、綺麗に手入れの行き届いた庭園に出る。
風流な庭園に囲まれた離れ部屋。

「す、すごい…」
「ワイらは別部屋があるさかい…ここは二人が好きなよーに使ぉてな」
「部屋にもお風呂がついてますが…大浴場も素敵なので、後で一緒に行きましょう」
「うん!行きたい」
真尋の誘いにゆやは二つ返事で返す。

「狂はんも後で呼びに来るで〜」
「……」
肩に手を回して誘うトラに、返事はしないが狂もまんざらではなさそうだ。


「すごい!広い!」
ごゆっくり、と言って二人が去った後、部屋の扉を開けたゆやは感嘆の声をあげた。

そのまま部屋の中を探索する。

間違いなくいい部屋だ。
広い寝室と見事な景色の縁側。
そして何より。
ゆったりとくつろげる、大きな岩の露天風呂。

「ほう…」
それまで、はしゃぐゆやに適当に付き合っていた狂が、露天風呂の前ではニヤリと笑った。

「ちょ…」
いやな予感。

狂は啣えていた煙草を右手に持ち直す。

「確かにいい部屋だ。夜の楽しみが増えた」

せっかくの貸切露天風呂なのに…のんびり入れなさそうだ。


***


真尋と共に大浴場にきてみれば、普通の浴槽の他に薬湯風呂や花を浮かせた風呂など、様々な湯があった。

「女性に人気なんです。それぞれ美容と健康促進の作用があって…。お花のお風呂なんて香りも楽しめますよね」
「ホント!なんだか優雅な気分」
色や見た目も鮮やかな温泉は珍しい。

一通り制覇してから、熱めの湯にゆっくりと浸る。

「で…最近どうですか?狂とは…」
本題とばかりに、真尋は目を輝かせて尋ねてきた。

「どうって…」
ゆやは赤い顔を半分湯に浸け、ブクブクと縮こまる。

基本は全然変わらないけれど、ふとした拍子に今までと違う面を見せられたりして…落ち着かない。
思いがけず触れられると、やっぱりドキドキする。
ゆやばかりが翻弄されているような、そういった所まで以前と変わらない。
でも、ちょっとずつだけど愛されてる実感も湧いてきた。
こう、なんか…行動や仕草で。…夜も。

上手く伝えられないけれど。
一緒にいれて倖せなのは確かだ。

「うふふ、そんなゆやさん達にプレゼントがあるんです」
「プレゼント?」
「此処、美容作用のある温泉に加えて…なんと素敵な催しもしてくれるんです!」
「催し?」
「ゆやさんが気に入ってくれると嬉しいです♪」

真尋が楽しそうな訳は、温泉から出て浴衣で向かった先で分かるのだった。


**


そこは衣装室。

ゆやの目の前に出されたのは、貸衣装だった。

綺麗な刺繍の入った、女の子の憧れ。
純白の…白無垢。

「え?これ…」
「みんなで二人を驚かせようって準備したんです。ゆやさんにいつもの感謝の気持ちを込めて。狂はアレですが、ゆやさんはやっぱり…祝言とか挙げたいだろうからって…」
驚き呆けるゆやに、真尋が説明する。

「この旅館、披露宴用の大広間もあるんです。実は大部屋に、元四聖天の方々と真田の方々、壬生の方々や…他のみんなも来ていて。みんなで二人をお祝いしようって!」
プレゼント、受け取ってくれますか?と笑顔で続ける。

断るはずがない。

「…ありがとう」
感謝の涙が目いっぱいに浮かんだ。


***


大広間横の控え室で白無垢着替え、旅館の女将に化粧を施してもらう。

人に化粧してもらうなんて初めてなので緊張してしまう。
普段そんなに化粧っ気がないので、キッチリされるとどうなるのか…自分でも楽しみだ。
鏡の前で自分が少しずつ変わっていく様に、ドキドキしていた。

「出来ましたよ。元の素材がいいから…仕立て甲斐があるわ」
最後に真っ赤な口紅を塗り、女将が満面の笑みで告げる。

「綺麗です!ゆやさん!」
真尋の目が潤んでいる。
とても嬉しいけれど…照れる。

望兄様にも見てほしかったな、と静かに思い、少しだけ胸が切なくなった。

「…狂は?」
「ひ、紅虎さん達が…」

その時、ドタドタと足音が聞こえてきた。
そのまま勢いよく部屋の扉が開かれると。

「堪忍や!狂はんに逃げられたー!!」
血相を変えた紅虎が入り込んでくる。

「「な!?」」
「祝言用の袴は縋って着せたんやけど…それで安心してちょっと目を離した隙に…消えとった…」
説明しながら紅虎は肩を落とす。

「そんな…ゆやさんこんなに綺麗なのに…」
見てもらいたかったのに、と真尋は続ける。

「今みんなで探しとる!あの格好やから宿からは出てへんはずや!!」
言って紅虎もまた探しに出て行く。

「ゆやさん!すみません!私も少し探してきます」
言い残して真尋も後を追う。

みんな真剣なのだが…。

「ぷっ…」
一人残ったゆやは吹き出してしまった。

狂が祝言なんて…柄じゃないものするわけがない。
逃げてでも避ける方が、狂らしいと思えた。
お膳立てしてくれたみんなのは悪いが…こんな展開も嫌いじゃない。

(でも、白無垢姿は…見て欲しかったな…)
せっかく綺麗にして貰ったんだから、と名残惜しく思った時。

ガタッ

いきなり上から何かが落ちてきた。

カラン

床を見れば、切り抜かれた板?

そして…

トサッ

「……」
「狂!?」

降りてきたのは、騒動の中心人物。

「アンタどこから…!」
さっきの板は…天狼で切り抜かれた天井板!?

(旅館の建物を…弁償…)

ついそっちの心配をしてしまう。
天井にポッカリ開いた穴を見つめ、青くなるゆやを余所に。

「…似合わなくはねぇな」
狂はゆやを眺めて呟く。

彼の方は、きっと無理矢理着せられたのであろう黒い袴姿。
壬生での戦いで京四郎が着ていた服を思い出した。

似合う。こういった袴も。
長身、胸板、ちょっと…着崩した感じ。

(か、かっこいい…)

文句なしの着こなしに、一瞬見とれて惚けてしまった。


「狂ー!」
「狂はーん!」
「狂さーん!」

「狂ー。オレと死合おー」

「灯ちゃんと祝言あげましょーう!」
窓の外にはちゃっかり白無垢姿の灯。

ワイワイガヤガヤ。

仲間達の狂を探す声が聞こえてくる。

優しい、楽しい、面子だ。


「…私、倖せ。みんなに逢えて」
そう実感して、心からの笑みが溢れる。

「全部、狂に逢えたおかげね」
ゆやの言葉に、狂は眉根を寄せた。

「…初めに逢ったのはアイツ(京四郎)だろう?」
「ううん、」
ゆっくりと、左右に首をふり

「狂を好きになったから。倖せ」
ふわりと笑う。
ありがとう、と。

「…そうかよ」
狂は一瞬目を見張ったが、すぐに満足そうな笑みを浮かべる。

「そうかよって…こういう時くらい甘い言葉を返してくれればいいのに…」
笑いを堪えつつ、ちょっとむくれて言い返す。

些細な…仕草や行動で示してくれること、知ってるけれど。

「それでもオレがいいんだろう?」
いつもの、楽しそうな笑み。

「な!?」
さすがにカチンときた。
図星だけど…図星だけど!

「オレもお前がいい」
「…!?」

予想外の言葉に、ゆやは耳まで真っ赤になる。
珍しく…お前『で』とか言わない。

赤い顔を見られたくなくて俯いたのに。

「ゆや」
大きな手に、顎を持ち上げられた。
深紅の瞳と向かい合う。

キチンと名前を呼ばれるのには、未だに慣れない。
その二文字が響く度にドキッとする。

その様子も、きっと狂には面白がられているのだろう。

早く慣れたい。

これからもずっと。
ずっとずっと、呼んでくれるだろうから。


目を閉じたいが、少し躊躇った。

もうすぐみんなも、狂がここに居ることに気付くだろう。


みんなが来た時、口紅ついちゃってたら…
バレバレかしら?

…ちょっと恥ずかしいけど。



狂が構わないなら…


私も構わない。







*****
いつか書こうと思ってたのに、随分遅くなってしまったネタです。
私のイメージの狂ゆや=原点回帰ってことで昔あたためたネタを思い出して書いてみました。
仲間が周りでドタバタ、二人はちゃっかりイチャラブ、そして乙女ゆや子。
これが私の狂ゆやイメージです!!

天様、遅くなってしまいましたが貰って頂けると嬉しいです!!


↓ラスト別バージョン。↓
***

柔らかな感触。
甘く優しい…。

これは…絶対ついちゃってるわ。

真っ赤な紅が。


あ!急いで拭えばいいのね!


だってやっぱり…

恥ずかしい!!


***
続きでした。

指でゆやが拭ってる時に、京四郎辺りが入ってきて言いふらして…ってパターン希望です(笑)


たまには鬼眼さんに素直になってもらったんですが…なんか別人になった気がする;;すみません。

滅多に鬼眼さんの甘い台詞書かないので、たくさん考えて悩みまくりました。

「オレがお前を好きなんだ、お前もオレを好きでいろ」
「お前はずっとオレを信じていればいい」
「お前を惚れさせた責任、とってやる」
「逃がさねぇ」
「お前はオレだけ見てればいい」
「お前はそうやってずっとオレを信じてろ」
「一生オレの傍にいろ」
「オレの居場所はお前だ」

色々考えたけど結局書けなかった…。
やっぱ甘い台詞は難しいです。
どなたかどこかで使って頂けると嬉しいです…(笑)

うちの鬼眼さんはゆや子に言わせてそれに便乗する形ばかりで…情けないですね。←
まぁ言葉で語るより行動で示す鬼眼さんが好きなんだけど…。
結局、やっぱ鬼眼さん難しいです!(>_<。)






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