約束 | ナノ






置いて逝く方と置いて逝かれる方、

どちらが辛いかなんて計り知れない。





【約束】





「先生!」
「千鶴?」

喫煙スペースで一服していた土方に、愛らしい声が呼び掛ける。
声で誰だか分かった。なんせ生まれる前から知っていた声だ。

「またそんなにタバコを…身体によくないです。肺が黒くなるんですよ…」
「あぁ、俺の肺は真っ黒だろうな」

笑って言うと、千鶴は小動物のように震えながら…何か言い返そうと、でも何と返そうか悩んでいる。

『昔』の千鶴と『今』の千鶴。

昔も働き詰めの土方の体調を気遣ってはいたが…今の方が細かい。
それも土方のせいといえばそこまでなのだが。

「安心しろ、約束は守る」
「と…、先生…」

歳三さん、と言いかけて、千鶴は慌てて言い直した。
ここは学校だが、誰もいないんだから、別に土方は名前で呼ばれても構わないのに。

「肺が真っ黒でも何でも、気力で生きてやるよ」
羅刹の寿命と喫煙者の寿命なんて、きっと雲泥の差だ。

「そ、そんなっ!じゃあ気力で禁煙して下さい!」
必死に訴える千鶴の頭にポンと手を置いて笑う。

普段の眉間に皺を寄せた張り詰めた彼からは想像出来ない…柔らかい表情。
そんな表情を、自分だけに見せるから…うっかりときめいて反論できなくなるのだ。
いつも。いつもいつも。

「ズルいです…」

あの頃と全然変わらない。

ドキドキしたり、嬉しくなったり切なくなったり、土方に逢ってから、千鶴の心臓は忙しい。









この学校に来て、前世で生き別れた愛しい人と再会して。
想いが通じた時は涙が止まらなかった。


「もう…離したりしねぇ」
腕の中で、掠れた声で囁かれた。

「一つだけ…お願いがあります」
「なんだ?」

嗚咽を堪えながら、千鶴は一つ一つ言葉を紡ぐ。


「1日でも、1分、1秒でもいいから…」

私より長生きしてください。


小さく、震える声。
千鶴の切実な想いが籠もっていた。

もう…置いていかれるのはイヤだから。


「分かった」
芯のある声で頷いて、強く強く腕の中の千鶴を抱き締める。

「っ…!」
ずっと求めていたあたたかさに、千鶴は声をあげて泣いた。









「言っとくが…おいていく方だって辛いんだからな」
「わかってます…」

だけどこれだけは譲れないのだ。
まだ、恐い、のだ。

「ま、せっかく平和な時代に生まれたんだから…」
額と額をくっつけて、深い紫色の瞳が真っ直ぐ千鶴を見つめる。

「ずっと、二人一緒に生きていこう」
「はいっ…」

何度でも言ってくれる、一緒の言葉が嬉しくてしょうがない。
幸せすぎて、また目が潤んでくる。

「長生きして下さいね」
「お前は長生きしそうだしな…ただでさえ俺は年齢のハンデがあるってのに」
一回りも違うのが少しもどかしい。

「だから…タバコ控えて下さいね」
控えめだがキリッと顔を引き締めて言う。

「…ひかねぇな」
やっぱり江戸の女だ、と懐かしげに目を細めた。

「当たり前です!だって…ずっと一緒にいたいから!」
歳三さんが大好きだから。

自分で言って頬を染める千鶴が愛しくて仕方がない。

俯く彼女の顎に手を寄せ、また視線を合わせる。
最近やっと先が分かるようになったらしい千鶴が、戸惑いながら目を閉じる。

昔と違う、平成の、高校生の千鶴に口付けた。


触れるだけから、だんだんと…深いものに変わる。

舌を入れた瞬間、…苦いです、とまた小さく抗議された。


「かなわねぇよ、お前には」

自然と笑みがこぼれる。

これが千鶴の魅力だ。


今も昔も、そんな千鶴に夢中だ。


(禁煙、か…)


千鶴のあたたかさを堪能しながら、土方は本気でそう思った。







*****
ひじちづ*らぶランク様の企画に捧げます!!

土千!!SSL設定で転生もの。
ついに書いてしまいました。
土方さん好きすぎる!!土千大好き!!


土方さん禁煙…無理だと思います!(笑)
けど千鶴の前ではあの偽物のやつだと思います。
最近流行りの禁煙タバコ。←





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