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06

 その日、夜は適当に個人戦の相手を見つけようとラウンジに居た。何となく暇だった、それだけだ。太刀川は隊を作ってからもよく夜を見つけては個人戦に誘ったりしたのだが、なんとなく避けていた。まだ隊は出来上がっていないとは言え隊長になる男なのだから、自分に付き合っている場合ではないだろうと思った。どんどん先に進んで行く太刀川の横に並ぶ自信も、夜にはない。

「迅さん! 一戦やりましょう!」

 丁度迅の姿を見つけ、夜は手を振りながら声を上げた。迅の方も夜に気づいていたようで手を上げて答える。そう急ぐ話でもないし、と夜は飲み物を買って迅が座っていた場所の正面に座った。
 迅は全て知っているようににこにこ笑っている。実際、知っているのだろう。迅には未来視がある。

「最近どう?」
「どうもこうもないですよ。私強くなってるんですかね」

 迅相手に隠し事は出来ない、故に夜は思ったままを口にする。いくら個人戦を熟せど、任務の助っ人を頼まれようと、今一自分が成長している実感がない。正直な所、夜は焦っていた。このままでいいのか、その一点に於いて夜には酷く自信がない。近い周りに居るのが規格外の人たちなのだから、と思っても心内が変わるわけではなかった。

「迅さんや太刀川さんに並べない事はわかってます。でも諦めたらそこで終了ですよって誰かが言ってた」

 ごくり、水分が喉から食道を通って落ちていく感覚がする。冷たいそれに、生き返る気がした。マイナスな思考も、一緒に流れてしまえばいいのになんて考えが頭を過った。何をぐだぐだと悩んでいるのか。それでも夜にとっては大事な事なのだ。
 迅は太刀川と対等な立場に居る。太刀川に頼むのを憚られる事も、迅には言えた。迅は迅で、二つ返事で了承してくれるから。恵まれているなと思った。だからこそ生まれる根拠のない不安感と戦っているのだ。

「夜ちゃんには夜ちゃんの良さがあるよ」
「そうかな、そうだといいんだけど」

 行こうか、と席を立った迅について個人戦をする為に移動する。その道中、迅がそんな事を口にした。夜にしてみれば全く思い当たる節がなくて、だから曖昧に頷く事しか出来なかった。

 個人戦は迅の勝利。まあそうだろうなと夜は思う。こんなに雑念を持ったままでは、迅の未来視になんて対応しきれないだろうと。

「大分手数が増えてきたね」

 だから迅がそう褒めてくれて、純粋に嬉しい気持ちになる。夜が弧月をメインで使うのは前述したが、その他にサブでハウンドを入れている。更に桜坂のワンオフである事の証、トリオンセーブのトリガー。名の通り、トリオンの消費を抑えるトリガーだ。桜坂は補助的なトリガーを作るのが上手かった。他にもいくつか種類がある。
 トリオンセーブを入れる事で、元来のトリオン量が決して多くない夜でもハウンドを乱発させられるという寸法だ。追尾する弾幕、それが夜の特徴である。

 迅との個人戦で満足して、またラウンジに移動してきた夜たちは先ほどと同じように向か会い合って座る。何の事はない、世間話を二、三交わした後に、そういえば、と迅が口にした。

「小南が会いたいって言ってたよ」
「本当です!? よし今日玉狛行く」

 小南と夜は仲が良い。けれど本部住まいと支部では会う機会もそんなにないし、学校も違うので最近顔を合せていなかった。今日の今日、というのは流石に迷惑か、と言ってしまってから思ったが、迅は気にしていないようだ。寧ろ「そう言うと思った」と受け入れてくれている。未来視の範囲内だったらしい。それならば遠慮する事はない。そういう関係性なのだ。夜はもう少し時間を潰した後、迅と連れ立って玉狛支部へ向かった。

「桐絵ちゃん元気!?」
「夜こそどうなのよ!」

 開口一番、出迎えてくれた小南へ向けた質問はそのまま夜に返ってきた。小南にはいつも元気を貰う。元気だよ、と夜はブイサインをして見せた。そうして小南に促されるまま玉狛支部の中に足を踏み入れる。久しぶりのそこは、夜の中に懐かしさを覚えさせた。そういえば暫く来ていなかったなと、改めて実感する。

 夕飯をご馳走になって、ソファで寛いだ。今日は泊って行けば良いという言葉に甘えた結果だ。幸い明日は学校はないし、せっかく来たのだから夜だってもっと小南と話したい。

「それでね……」
「あんたの話太刀川率高いわよね」

 夢中になって話していたら、不意に小南にそんな事を言われた。そうだろうか、夜は一度話すのを止めて自分の言動について頭を巡らせる。そんな心算は全くなかった。無意識だろうか、太刀川と関わる事は多かったから、必然と言えば必然な気もする。それでも何だか恥ずかしくなって、夜は話題転換を試みる。小南にとっても然程重要な事でもなかったらしく、話は全く違うものに変わっていく。

 話は日付が変わる頃まで続いて、それから夜はシャワーを借りてこちらも一晩だけ借りた部屋のベッドに身を投げる。久しぶりにこんなに無条件で楽しんだと、夜の心内を占めるのは満足感と幸福感だ。
 迷惑にならないよう注意はしなければならないけれど、偶にこうして玉狛を訪れてもいいだろうか。後で迅に聞いてみようと、夜は思った。


十年後の私へ
 友達って、いいものだね。常に一緒に居るだけが、同じ考えを共有するだけが友達じゃない。喧嘩したとかそんな事じゃないけれど、暫く関わりがなくてもいつも同じように接してくれる。それが嬉しい。貴女に今の私よりもっと沢山の友達が居ればいいな。中心に居なくてもいい。笑っていられたら、それで満足。ねえ、そうでしょう?



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