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番外編2.夜は長し

 郁が伏黒に言ったのには理由がある。今日は郁の誕生日だ。一人で夜を過ごすのは寂しかった。だから恋人の伏黒に、一緒に居て欲しいと頼んだのだ。厚かましいかとは思った。けれど恋人なんだから良いだろうとも思った。特別な日くらいは、我儘を言いたい。いつも我儘かもしれないが、誕生日は別である。ノーカウントにして欲しい。

「泊まって行って」

 郁の方を見ながら固まっている伏黒に、郁はもう一度畳みかける。これで断られたら仕方ない。

「……迷惑かな」
「いや」

反射的に返した後、伏黒はしまったと思う。泊まって行くのを了承したようなものだ。一方郁もこうなったら引く気もなく、じっと伏黒を見つめていた。伏黒が分かりやすくたじろぐ。視線が泳いでいる。しばらく考えた後、伏黒が返した答えは是だった。いいのか、と言葉が続く。駄目だったらお願いしないよ、と郁は言った。そう、お願いなのだ。郁が頼んでいる。理由は単純、伏黒と居たいから。
 時間はもう夜。誕生日とはいえ普通の日だったので、二人が会ったのは夕方だ。学校が終わってから待ち合わせて、二人でケーキを買って郁の家へやってきた。家で過ごしたいと提案したのは郁だ。何となく、勝手知ったところでゆっくり過ごしたかった。
 郁が料理を作っても良かったのだが、伏黒と沢山話したくてピザを注文する事にした。デリバリーのピザとケーキ。十代の誕生日パーティーにしては上々だろう。

「郁、おめでとう」
「ふふ、有難う」

 伏黒はストレートに言わないと思っていたから、おめでとうの言葉は至極嬉しかった。プレゼントを渡される。開けてみてもいいかと聞いたら「いい」と短い返事が返ってきた。

「ネックレス!」
「……何が欲しいか分かんなかったから」

 先輩に聞いた、と伏黒は続けた。聞くのもきっと迷っただろう。恥ずかしかったのではないだろうか。そんな光景を想像して、郁はふふふと笑った。何だよ、と伏黒がじとりと睨んでくるが、全く怖くない。郁はもう一度お礼の言葉を伝えると、早速ネックレスをつけてみた。

「どう? 似合う?」
「……おう」

 伏黒の短い返事は肯定を意味しているのが分かったから、郁は一層顔を綻ばせた。食べよ、と促す。ケーキはホールではなく数種類のケーキをピースで買ってきた。ホールで買っても二人では食べきれないし、同じ味は飽きてしまう。それなら、色んなケーキを少しずつ食べられる方が良い。

「恵くんどれにする?」
「郁が先に選べよ。主役だろ」

 伏黒の言葉に郁はそれもそうかとケーキを眺める。少し悩んだ末、フルーツタルトを手に取った。それを見て伏黒はモンブランを選ぶ。二人の手元にケーキが渡ったところでパーティーの始まりだ。郁と伏黒は他愛もない会話をしながら食べ物を平らげていった。その後そろそろ帰ろうかという雰囲気になったところでの郁の提案が、泊まらないかというものだった。
 いいと言ったものの、伏黒はまだ悩んでいた。泊まるにはそれなりに心の準備もある。本来二つ返事で了承できるようなものでもない。郁も伏黒も、健全な高校生なのだ。しかし郁の押しに負ける形になった伏黒。腹をくくるしかなかった。幸い明日は休日だ。郁もきちんとそれを把握したうえで提案している。

「一緒にお風呂入る?」
「それは断る」

 だよね、と郁は笑う。続けて私も嫌だと言ったらじゃあなんで言ったんだと呆れられた。
 誕生日の夜は、まだまだ長い。


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