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 私の身体はアイスクリームで出来ている。そう友人に言ったら、一言目に馬鹿じゃないのと言われ、次にまあそうかもねと納得された。馬鹿とは何だ馬鹿とは。私は至って真面目である。食い下がったら五月蠅いと一蹴された。何と酷い友人なのだろう。これでは一緒にアイスクリーム巡りをしようなんて言いづらいではないか。しかししたいものはしたい。私は意を決して明日一日くれませんかと友人を誘ってみた。

「無理」
「即答だもの!」

 何だよ何だよ、付き合ってくれたっていいじゃないか。不満をあらわにすれば、友人は呆れたように溜息を吐いた。私は期待する。仕方ないな、今回だけだぞ。きっとそんな風に言ってくれるのだ。しかし違っていた。世の中そんなに甘くないらしい。

「太刀川くんと行ってくりゃいいじゃん」

 友人はそう言ってのけたのだ。いや、分かっていた。絶対言われると思った。けれど太刀川の野郎とアイスクリーム巡りなんて虫唾が走る。何を言われるか分かったものではない。
 太刀川。太刀川慶。私の彼氏の名だ。一応の彼氏、と言っておこう。太刀川はあまり大学で見かけないし、暇なのか忙しいのか分からないような男だからそれこそ誘いづらい。そんな男とどうやって付き合うに至ったのか。
 きっかけはとある講義だ。一つ空けて隣に座っていた太刀川は、それはもうものの見事に爆睡していた。よく注意されなかったものだと思う。やがて講義が終わっても太刀川は起きる気配はなく。私は仕方なく起こしてあげる事にしたのだ。わあお、なんて良い人なの。

「起きて下さいよ、講義終わりましたよ」

 最初は優しく。しかし全く起きなかった。控えめに肩を揺さぶってみても反応なし。段々面倒になってきた。どうすれば起きるだろう。考えたがいい案は思いつかず、起きない苛々も手伝って私はノートで太刀川の頭をひっぱたいた。

「起きろって言ってんじゃんもう!」
「あ? ……お前誰?」
「親切な大学生Aだよ殺すぞ」

 初めて話した会話は笑い話にもならないものだった。太刀川は口が悪いななんて飄々と言い、私も私で誰のせいだと怒りながら返したのを覚えている。
 第一印象は太刀川の方はどうだか知らないが、私は最悪だった。多少乱暴になったのは申し訳ないが、起こして貰って感謝の言葉もないのだ。まず有難うじゃないのかと問えば「起こし方がなあ」なんて言っていて。もう知らん、そう思って去ろうとしたら名前を聞かれた。

「……人に名前を尋ねる時はまず自分から名乗れ」
「そりゃそうだ。俺は太刀川慶」

 太刀川が名乗ったので、私も仕方なく名乗った。一応また一緒になる事もあるだろうし邪険にしすぎるのもどうかと思ったのだ。
 しかしそれから、何故か太刀川と過ごす時間が増えて行った。きっかけとは分からないものである。太刀川はいつも何を考えているか分からなくて振り回される事も多く最初は不快だった。それを楽しいと思うようになったのはいつからだろう。

「私の身体はアイスクリームで出来ている」

 太刀川にも言った事がある。真夏の事だった。アイスが食べたい、どちらからかそんな話になって出た言葉だった。
 だって本当に好きなんだ。夏は勿論、冬だって食べていたい。口の中に広がる冷たさは、冬なら冬で魅力的なものである。そう言えば大体呆れられるのだが太刀川は違った。

「じゃ溶けちまうな。溶ける前に食べちまわないと」
「卑猥!」

 狙ったのか私の考えすぎなのか。けれど太刀川のこの言葉で、私は落ちた。理解出来ないと言われるだろう。私も理解出来ない。じゃあ食べてよと言ったら卑猥だと私の言葉そのままに返された。そうやって、私たちは付き合う事になったのである。
 つまり太刀川をデートに誘えばいいじゃないかと、友人はそう言っているだけなのだ。
 アイスが好きだと言っているが、実は太刀川とアイス巡りはした事がない。太刀川が好きなものも知らなかったりする。あれ、私たち付き合ってるんだろうか。

「行こうよアイスクリーム巡り行こうよ」
「だってよ、太刀川くん」

 友人の視線の先にニヤニヤしている太刀川が居た。思わず「げ」と苦い声が出る。いつから居たのだろう。全然気がつかなかった。彼氏が近くに居ても気づかない彼女、彼女としていいのだろうか。

「行ってやってもいいぞ?」
「虫唾が走る!」

 さっき思った事をそのまま言ってやった。太刀川はそれでも表情を崩さず、私は何だか気まずくなってきた。言い方は少し引っかかるが行くと言っているではないか。何も問題はない。自分の中で会議する。葛藤の末、結局太刀川に頭を下げた。

「付き合ってください」
「虫唾が走るんじゃないのか?」

 死ねと叫びたくなったがそんな事を言ったら私の品位が落ちる。ぐっと堪えたのを誰か褒めて欲しい。私たちのやりとりはいつだってこうで、知らない人は恋人同士だなんて微塵も思わないだろう。それで良い。二人の距離感は近いと思うし、何だかんだ私はこの男が好きなんだ。あまり可愛げがないと捨てられるぞと言われたりもするが、大丈夫だと思っている。今のところ、泣かされてもいない。

「太刀川のグルメツアーにも今度付き合うわ」
「そりゃ楽しみだ」

 私の明日は半分憂鬱で、二倍楽しみだ。
 そんな、なんでもない一日の話。


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