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ラックラック

 この世界は弱肉強食だと誰かが言っていた。結局は強い者が勝つのだと。それなら、強い者が弱い者を守ればいいじゃないか。誰が悪で誰が正義かなんて分からない。それは、立場で変わると思うから。難しい事はどうでもいいのだ。私は、私が守りたいと思う者を守るだけ。私が救いたいと思う者を救うだけ。勝手だと言われるかもしれない。それでいい。私は私の意志の元動く。そして今日も、拳をふるうのだ。

「くそ女……」
「そりゃどうも」

 そこら辺の不良になんて負けない。あいつらは学校という囲いの中で粋がっているだけのカスだ。自分が優位に立ちたくて、意味もなく勝手に決めたターゲットへ理不尽な暴力を繰り返す。それなら、己も同じ目に合ったって文句は言えないだろう。私のやっている事も彼らがしている事と変わらないという者も居る。そんなのは上辺だけ見ている奴なので放っておく。理解者なんていらない。

「何してんの?」

 背後から声がした。聞き覚えのない声だ。しまった、人が来るなんて思わなかった。元々不良どものたまり場だったから人が寄り付くと思わなかったんだ。どうしたものかと考える。声の主はこの喧嘩には何も関係がないが、一見すると私が一方的に痛めつけているように見えるだろう。責められるのは怠い。かと言って逃げるのは違う気がする。

「う、うわあ!」

 頭の中でごちゃごちゃ考えているうちに隙が出来たのだろう。不良共は一目散に逃げて行った。残されたのは私と私が来るまで痛めつけられていた一人の男子生徒、それに声をかけてきた背後の誰かさん。誰かさんはひとまず無視をして、私は未だ震えている男子生徒に手を差し伸べた。

「大丈夫?」
「芦屋、さん……」

 名前を知られていたか。見たところ同じ学校のようなので、知っていて不思議ではない。立てるかと聞いたら、男子生徒はおずおずと私の手を取った。大きな怪我はないようでひとまず安心する。顔は無傷、でも制服は汚れてしまっている。見えないところを殴られたのだろう。姑息な奴らだ。低レベルのゴミが、と呟けば男子生徒の肩がピクリと反応した。君の事じゃないよ、と否定する。それを聞いて少しは安心したのか、表情が少しだけ緩んだ。もう行きな、と言えば感謝の言葉を述べて去ってゆく。残されたのは、二人。さて、と背後に向き直る。

「アンタ強いのな!」
「は、え?」

 これから何と責められるのか、事によってはまた暴力に頼る事態になるだろうかと思っていたところにそんな事を言われ、私は反応に困ってしまう。傍から見たらさぞ間抜けな顔をしていたに違いない。いけないいけないと気を引き締める。強そうな奴は大体見て分かる。こいつは多分、強い。

「俺、虎杖悠仁! アンタは?」
「は……芦屋、尋乃……」

 用心しようと思った矢先に裏表のない笑顔で言われ、条件反射のように名乗ってしまった。何を考えているのか、全く分からない。警戒心というものはないのだろうか。私の拳には血がついているというのに。

「よくそんな普通に話しかけられるね」
「だって尋乃、ヒーローだろ?」

 パチリと、何かが弾ける感覚がした。暴力女とはよく言われる。友人と呼べる者も居ない。周りは敵ばかり。今みたいに、助けたってまともな会話なんてして貰えない。だが虎杖と名乗ったこの男は、いとも簡単に壁を超えてきた。ははは、と笑いがこみ上げてくる。初対面だけれど、虎杖とは仲良くなれる気がした。

「虎杖、友達になろうよ」

 気が付けばそんな事を言っていた。虎杖はキョトンとして、その後に「良いよ!」と親指を立てた。私と虎杖の付き合いは、ここから始まったのだ。

「……懐かしいなあ」

 今私は、倉庫の中に立っている。ガラの悪い男たちに囲まれて。悠仁と友人になっても、私は私の生き方を変えなかった。結果、今の状況になっている。でかい顔をしている芦屋をこれ以上自由にさせるな、という事らしい。人数が多いし相手の強さも分からない。明らかに年上も居る。いけるだろうか、駄目かもしれない。でも弱音は吐けない。向かっていくしかないのだ。そして、決して気持ちで負けたりしない。

「やってやるよ」

 この世は弱肉強食だと誰かが言っていた。今私は、強者だろうか、弱者だろうか。この人数相手に一人で立ち回っているのだから、褒めてもらいたい。そもそも喧嘩が褒められる事ではないのは、分かっているけれど。
 女だからって手加減しねえ、と誰かが言った。生意気だ、潰してやる、そんな声も聞こえてくる。序盤こそ捌けていたが、段々手足が上がらなくなってきた。受けるダメージも増えていく。

「警察が来た!」

 やっぱり駄目かも、そう思った時に声がした。よく知っている声だった。不良共が散っていく。私はその場にへたりこんだ。

「大丈夫?」
「悠仁はヒーローだね」

 警察は嘘らしい。鵜呑みにして逃げたあいつらは、脳みそが筋肉で出来ているのだろう。それは私もか。頬がひりつく。体中が痛い。本当に手加減しないんだから、と言えば無茶しすぎだと叱られる。悠仁は自分は喧嘩しないけれど、最後には一緒に居てくれた。あの日悠仁は私の事をヒーローだと言ったけれど、私はそんな大したものではない。寧ろ、私にとっては悠仁が。

「女の子は顔に傷作ったら駄目だろ?」
「悠仁、恋人になろうよ」

 絆創膏を取り出す悠仁に、随分準備がいいなと思いながら、気が付けばそんな事を口にしていた。悠仁はあの日のように一瞬キョトンとして、その後「俺には荷が重いなあ」と笑う。私は短く「そ」と返した。まあ、そんなものだろう。友人は続けてくれるだろうか。言葉は、悠仁の方が早かった。

「わかんねえけど、それで尋乃が無茶しなくなるなら俺は傍に居るよ」
「……そ」

 外から差し込む夕日が、眩しかった。


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