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10.理由が欲しい

「五条、神野。二人で任務に向かえ」
「げっ」

 言ったのはどちらだったか。とにかく二人は夜蛾のその言葉に顔を顰めた。夏油が「仲が良いね」とわざとらしく揶揄するが無視だ。そう言われるからには同時に声を出していたのかもしれないが、それどころの話ではない。二人にとっては、だ。
 五条と結希がコンビを組むのは初めてだ。そもそも結希は内容かしていつも単独任務。誰かと組む事自体がもう珍しい。

「五条。呪術での戦いを見せやれ」
「私には見学をしていろと?」
「他に学ぶ事もあるだろう、いい経験だと思って行ってこい」

 夜蛾の言葉に結希は明らかに不満の表情を浮かべた。呪術は単独任務で腐る程使っている。今更他人の戦い方を見たところで何になるというのか。結希が使える呪術は家系によるものであって他人の術式を見たところで参考に出来るものではない。夜蛾もそれをわかっていて言っているのだが、結希には通じていない。

 いい経験、夜蛾はそう言い止めた。その何たるかは、結希本人が理解出来なければ意味がない。今回の様子で、結希を誰か、主に五条か夏油になるが、と組ませる回数も増やそうか、とそう考えていた。生徒全ての能力の底上げを。夜蛾にも考えがある。

「要するにお守りじゃねえか」
「まあまあ、行ってきなよ、悟」

 ごねる五条を宥める夏油。だが面白がっているのが目に見えるので効果は全くない。結希としても、初の共闘が五条である事に関しては苦言を呈したい所だったが、夏油だったとしてもそれはそれで嫌だ、という結果にたどり着いて黙った。

「他人事だと思ってんだろ」
「さあ? どうだろうね」
「くそっ」

 行くぞ、と一言声をかけ教室を出ていく五条。決まった事は仕方ないので、文句も言わず結希も後に続いた。校門をくぐれば既に車が用意されており、並んで後部座席に乗り込む。
 そして現場までの移動。どちらも声を発さない。どこかピリピリした雰囲気に、補助監督も任務に必要な情報を伝えるのみで、それも終わってしまえば車内は静かなものだった。現着したら、「お気をつけて」の言葉と共に送り出される。

「お前何が出来んの」
「近接戦闘なら少し」
「それは見てりゃ分かるけど」

 帳の中、二人は僅かばかり言葉を交わしながら歩いていく。
結希の呪骸五十体斬りの様子は高専における近接戦闘訓練にて散々目にしている。体を動かす事が出来るのは、百も承知。逆に言えば、それ以外の情報に乏しい。

「呪術は」
「……近接戦闘なら少し」
「答えになってねえんだよ脳みそ沸いてんの」

 明らかに苛立つ五条。何がそんなに面白くないのか、言葉の端々に棘がある。結希とて意地悪をしているわけではない。言えないのだ。言わなように、祖父に教育されている。高専の仲間とて、軽々しく術式を明かしてはならぬ、と。

 信頼関係があればまた違ったかもしれない。だがこの時点において結希は五条たちを信頼しきっていない。絆される事はあれど、心を開ききっていない。自然、結希の言葉は一辺倒になる。

「まあいいわ。邪魔になんねえ所に居ろよ」
「そうします」

 諦めた五条の様子に息をつき、結希はその後ろをついて行く。大きな廃ビルは呪霊の気配で溢れている。小物からそれなりの呪霊まで、まるでバーゲンセールだ。特別特価大放出。全く、本当に全く有り難くない。

 五条の術式は凄まじい。一人で出てくる呪霊を端から木っ端微塵にしていく。これは本当に自分の出番はないかもしれない、と結希は五条の後ろで考えていた。
 これがいい経験なのだろうか、ただ見ているだけだ。見学。他に学ぶ事、が見つからない。あまりにやる事がなさすぎて、五条と戦うとしたら自分ならどうするか、そんな事ばかりを考えていた。

「行ったぞ」
「は?」

 途端、反射的に目の前に迫ってくる呪霊を呪具で真っ二つにする。真っ二つにしてから、結希は振り返りもしない五条をギロリと睨んだ。

「今わざと取りこぼしませんでした?」
「仕事作ってやったんだよ感謝しろ」

 くそ野郎、と思ったが口にはしない。ただでさえ口の悪い五条だ、百倍になって嫌味が返ってくる。任務中に言い争って失敗しました、では笑い話にもならない。

「お前さ、なんの為に呪術師になんの」

 目標討伐。実に簡単な任務。結局結希が手にかけたのは五条が意図的に取りこぼした一体だけで、後は何もする事がなかった。居なくても同じだった。二人の意見は一致している。そんな帰りの車内、五条が発したのが先ほどの言葉。

「さあ、考えたことありませんね」

 結希は思ったままを答える。呪術師になれと育てられてきたのだから、それに理由を求めた事などない。それが必然であると思って生きてきた。思っていたから、生きてこれた。

「そのうち死ぬぞ」
「それまでの命だったって事でしょう。人間生まれながらにして価値が決まっているんですよ」
「はあ?」

 結希の意図する所が分からず、五条はその端正な顔を歪める。結希はといえば、自分に向けられる顔はいつも不満に溢れていると、冷静に考察していた。

「五条くんは価値ある人間です。私とは違う」

 御三家に生まれ、術式を完全とは言えずとも使いこなすエリート、五条悟。ある筋ではそこそこ名も知れつつ、しかしそれを隠しひっそりと生き、また待望の子と言われつつ術式を半分しか継いでいない半端者として育った神野結希。
 命の価値が、違っている。けれどそれは結希の持論。五条には到底理解出来ない。

「……お前と話すと疲れるわ」
「好都合。話しかけないでください」
「くそ野郎」
「くそ女だよ。間違えんな」

 互いに譲歩はない。補助監督一人が、冷や汗を流していた。


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