◇After 二十五罪−1/1−
「枢様!」「白亜様!」
寮に戻った白亜と枢に、一足先に着いていた英と瑠佳が飛び付かん勢いで迫って来た。
二人の瞳はキラキラと輝いている。
「ご婚約なんて、いつの間になさったんですか!?」
「教えてくださったらお祝いしましたのに!」
嗚呼それにしても今夜の白亜様はいつにも増してお美しかったですわ漆黒のドレスが白いお肌にとてもよく映えて、と続けて瑠佳は息継ぎもなしに捲し立てた。
「さあ……いつだったかな、白亜?」
枢は曰くありげな目つきで白亜を見やった。
私に会話を振るなんて、と白亜は枢を軽く睨む。
実は夫婦なのよ、なんて本当のことは言えるわけもないが、喜びにあふれた無邪気な二人を目の前にしては答えないわけにもいかない。
『んーと……昔、よ。昔』
「では許嫁だったのですね!」
『そういうこと…に…なる…の…かしら、ね…?』
「まあ素敵!」
当たらずといえども遠からず、である。
嘘は言ってないのだから。
ただその「昔」が英や瑠佳が考えている「昔」とは大きくずれているだけであって。
「もう、」
部屋に戻った白亜は、枢を見つめ軽く頬を膨らませて不機嫌を示した。
そんな彼女に枢は甘い瞳で微笑みかける。
「どうしたの?白亜」
『私の反応を見るために私に答えさせるなんて狡いわ』
「可愛い君を見たいと思うのはいけないことなの?」
『……ばか』
顔を赤く染め目線を逸らした白亜に、枢は愛おしそうに目を細めた。
枢の細長い指が、白亜のやわらかな頬を包み込む。
「貴族たちの前で『彼女は僕の妻です』って言った方が良かった?」
『そんなこと今は言えないのわかってるでしょ』
「もちろんだよ。大混乱になっちゃうからね」
枢はいたずらっぽく、くすりと笑った。
その唇が白亜の肌に降り始める、黒檀の髪がはらりと零れた。
だんだんと深くなるキスに、白亜の脳内は甘く麻痺していく。
その白い肌から匂いたつ花のような香りは、枢をいとも簡単に酔わせていった。
『……でもね、』
「ん…?」
『…恋人時代に戻ったみたいで、なんだか、嬉しい』
口付けた鎖骨に響く呟きに、枢は満足そうな笑みを零した。
−END−