王妃の日記 | ナノ


 ◇第一罪:赤い記憶−1/4−
あの雪の日から、十年後――――
私立黒主学園 宵の刻


「はいはいはい、下がって下がって。デイ・クラスの皆さんはもう門限ですから、自分の寮に帰って」

月の寮の前では今日も小柄な女の子が普通科の女子生徒たちを懸命に押さえながら叫んでいた。
小さな体で一生懸命働く可愛い風紀委員さん。
私の大切な妹。

『零、行かなくていいの? 優姫は一人で頑張ってるわよ』

「もう少しここにいる…。それより白亜、座ってろ。またぶっ倒れるぞ」

窓から身を乗り出して外を覗いているとソファから声がかかる。
私の部屋で寛いでいるのは銀色の髪をしたもう一人の風紀委員、錐生零。

『…はーい』

私はしぶしぶ窓際の椅子に腰かけた。それでも目線は窓の外に残したまま。

『夜間部が出てきたわ。あっ!優姫が転んじゃった。大丈夫かしら…」

ちらりと零の方を向く。

「行ってあげて、零』

「大丈夫だろ、転んだくらい」

素っ気ない返事。
本当は心配なくせに。

『あ…、枢が助けてる』

けれど私がそう呟いた途端、零の姿はなかった。

ほんと、素直じゃないんだから…
でもそこが可愛くもあるのだけど。

不器用な彼を微笑ましく思いながらまた窓の外に目を戻す。

人混みの中でもすぐに分かる黒橡色の髪。
目で追うのは、いつもその人。
夜間部のクラス長で、月の寮の寮長

玖蘭枢

十年前のあの雪の日…
私と優姫を助けてくれた人。
私と優姫のお兄様。
そして、私と優姫の好きな人―――。

優姫は枢が兄だということを覚えていない。
私が実の姉だということも…。

あの子を守るためとはいえ、真実を隠している罪悪感は今日も私の胸を鈍く覆う。

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