◇第三十八罪:終息の果てに−1/9−
石造りの階段をゆっくりと下りる。一段一段下るごとに、薄気味悪い冷気と血の香りが濃さを増した。
この先にもう一人、葬らなければならない者がいる。
「…枢様、白亜様…」
最奥の部屋には一翁が静かに佇んでいた。
私達に背を向けたまま淡々とした口調で言葉を吐く。
「私を滅ぼしに来られたのですか…。今に復活された我らの尊き始祖の御二人がわざわざ…」
「あなたにはお世話になったから…一条麻遠…。それに僕たちは"眠り"前の調子を取り戻したからね…」
「…ここは李土様が十年養生されていた地下室です…」
一翁は血のこびり付いた棺を眺めながら言った。
「やはりこの場所に立つと、私のやってきた事は正しかったのだと再確認できる…」
『あなたのやってきたことが、正しい…?』
「"玖蘭家"という存在を有効に利用することで、元老院は円滑に吸血鬼社会の"管理"の役目を果たしてきた…」
『歴史を偽り、皆を欺き、争いを生みながら管理することが…?』
「ええ…、それでこそ吸血鬼のあるべき姿…。私は正しい事をしてきたつもりだ。…枢様、白亜様、むしろ非があるのはあなたがたの方ではないのですか?」
一翁の言葉にドクリと心臓が鳴った。
ずっと手に持っていた『日記』をぎゅっと握りしめる。
そう…。
過ちを犯したのは、私―――。
「謹んでください、お祖父様」