王妃の日記 | ナノ


 ◇第三十五罪:決意−1/10−
side 零

薄く積った雪に反射した朝日が目に刺さる。
その眩しさに耐えられずカーテンを閉めた。
薄闇の部屋の中、浮かぶのは昨夜の白亜の顔。

―――『お願い零、私を……赦さないで…』

泣き出したいのを堪えた瞳、掠れた声が、幾度も頭の中で繰り返される。
何よりも、誰よりもあいつの笑顔を望んできた。
あんな顔をさせたかったわけじゃない。

でも…。

優姫までもが吸血鬼だったという事実に
確かに一瞬、俺は打ちのめされて。
裏切られたという感情が心を掠めた。
それはすぐに霧散したけれど。

わかってる。
隠し事と裏切りはまったく違うものだ。
あいつは悪くない。
ただ、雪に遮られたあの距離が、あまりにも遠くて――――

「おいおい久々に来てみればなんだ?」

聞き慣れた声に目を開けた。

「また悠長に引きこもりに逆戻りか、馬鹿弟子。カーテンくらい開けとけって」

今はあまり見たくない師匠の姿。
その後ろには理事長がいた。

「…人の勝手だろ、前より眩しいんだ」

「夜刈、錐生くんは今そんな気分じゃないんだよ。察してあげて」

「…理事長」

低い声で呼べば、理事長はびくりと身体を固くした。

「あんたは全部知ってたのか?」

それは疑問と言うよりも確認。
予想通り、理事長は躊躇いながらもうなずいた。

「……師匠、あんたは何をしに?」

「…ひとり…、緋桜閑以外で行方をくらましている純血種がいてな…、追っていたらここに辿り着いたわけだが…」

師匠は紫煙をくゆらせながら言った。

「来る途中、協会から指令が入った。――"錐生家の双子の片割れ、零を拘束せよ"ってな」

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