王妃の日記 | ナノ


 ◇第二十罪:忘却の蝶は追憶の羽を取り戻す−1/4−
「理事長っ、白亜が…!」

優姫は叫びながら理事長室に駆け込んだ。

「優姫?どうしたんだい!?」

「白亜が…白亜が死んじゃうっ!!」

「え…?」

泣きじゃくりながら、たどたどしく今までのことを話す優姫。
理事長はそれを黙って聞いていた。

「どうしよう…、白亜が死んじゃったら…っ」

「白亜は、玖蘭枢に預けてきた」

「零…!」

音もなく部屋に入ってきた零は、ソファにどかっと腰を下ろす。
浅紫の瞳は、ただ自身の手を見つめていた。
未だに震えるその指先を。

白亜の細い体の感触がまだ消えない
軽すぎる身体、弱まる呼吸。
そんな彼女をこの腕に抱きながら、何も出来ない己の無力さがひどく恨めしかった
白亜を救えるのは枢だけ。
その事実が心を突き刺す。
だけど今はただ、祈るしかなかった。

誰も一言も発せず静まり返る室内。
いつもの部屋がやけに寒々と感じられた。
気付けば空が白み始めていた。すると、
――コンコン
重々しい静寂が三人に圧し掛かる中、扉が叩かれる。
入ってきたのは英だった。

「枢様より伝言です! 白亜様は…、白亜様は一命を取り留められました!!」

「…本当に?藍堂センパイ本当ですか!?」

「本当だ!お身体の損傷が激しく、当分は絶対安静だそうだが、とにかくご無事だ!!」

「……よか…た……っ」

勢いよく英に掴みかかった優姫は、ほっとしたのかその場に座り込む。
理事長は安堵のため息をつき、零は両手で顔を覆った
冷え切った空間に、ようやく温かな風が流れ込んだようだった。

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