王妃の日記 | ナノ


 ◇第十九罪:愛してる−1/8−
side 零

前から気付いてた。
でも、気付かないふりをしてた。
いや、気付きたくなかった。

「…この部屋に満ちる血の香りはなんだ…?そして…お前から、うっすらと吸血鬼の気配がするのはどうしてだ?」

それも、ただの吸血鬼じゃない。――これは純血種のもの。
白亜は目を見開いて小刻みに震えていた。
優姫は事態を理解しきれておれず、呆然としている。
俺はなおも言葉を続けた。

「それに、何故お前の部屋に血液錠剤があるんだ?……白亜、答えてくれ」

白亜は顔を歪めて横に振る。
大きな瞳に涙を一杯に溜めて。

『………言えない』

「頼む白亜。俺はもう、逃げないと誓ったんだ」

閑が死んで、この運命から逃れる術は絶たれた。
あいつを殺してすべてを終わらせるという目的も失った。
だけど、否、だから、俺は立ち向かうしかないんだ。
そのために、強くならなければいけない。
目を背けてはいけない。

大事なものをこの手で守りたいから。

「白亜……」

懇願するように、声を絞り出した。

『……私は……』

か細い声は残酷にも、予想通りの答えを告げる。

わかってたんだ
心のどこかで

それでも、呆れてしまうほど、俺の心は変わらなかった。

『……私は……純血種なの。……枢の、妹なの……』

「…なぜ、人間になった?」

白亜はゆっくりと語った。
ある術式で人間になったこと。
それが中途半端だったため病弱だったこと。
血液錠剤は病状を抑える薬で、最近服用し始めたこと。
治癒するには玖蘭枢の血を飲んで、吸血鬼に戻るしかないこと。
でも、それはしないと決めたこと。

そして、その身に残された時間のこと。

『……私、もうすぐ死ぬの』

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