◇第十八罪:伝う涙は何処へゆく−1/6−
side 英「英、本当に留守番するのか」
暁の言葉を僕は布団に潜り込んだまま聞いていた。
「僕は行かない」
従兄弟は深くため息をついて部屋から出ていく。
その気配が完全に寮を出たのを確認して、僕はベッドから起き上がった。
部屋の窓から、黒塗りの車を見送る。
枢様は一条と暁を従えて元老院へと向かわれた。
僕は僕で、行かなきゃいけない所があるんだ。
僕は足早に寮を出た。
陽の寮の前には黒主優姫と一人の人間。
たしか、女子寮の寮長……だったと思う。
「話し中ごめん、ちょっと聞きたいんだけど」
「藍堂センパイ!」
「藍堂さん!!どうしてこちらに?月の寮と陽の寮は簡単に行き来はできないようになっているのに、わざわざ……」
「ちょっと用事があってね。見なかった事にしてくれない?」
軽く微笑みながら口元に人差し指を当ててそう言えば、その子は頬を染めてにこやかに去って行った。
「藍堂センパイ……用事って何なんですか?」
不審そうに訊いてくる黒主優姫。
「黒主白亜……はどこにいるんだ?」
「白亜になんの用なんですか?」
「んー、ちょっとね。で、どこにいるの?」
「ここにはいませんよ。体調が悪いから、私的居住区の方に……」
「体調が悪い?いつから?」
「えーっと、舞踏祭の後くらいからです」
舞踏祭の後、といえば"あの夜"からだ。
いやな予感がした。
「私的居住区だな!わかった!!」
僕は走った。
黒主優姫が追いかけてくるのも気にせずに。