おもい「なぁ」 「あ?」 「…やっぱなんでもねぇや」 「言いたいことがあるならはっきり言え」 「何でもねーんだよ。気にすんなって」 二人部屋に増築された離れの互いの部屋で、静かな休暇。頬杖を突いて窓の外を眺めていたルークがぽつりと零す様に投げかけた問いは、今のように静まり返った状態でなければ聞き取れないほどで、きっと聞こえなくてもさして問題はなかったのだろう。 「用もないのに投げかけんな」 「えー、アッシュが勝手に拾ったんじゃねぇか」 「ふん」 二人で無事に帰還できてからというもの、ルークは以前のように思ったことを口にするということが、やや遠慮がちになったと思う。直情的、とはまた違うかもしれないが、旅をしていた頃に衝突しあっていた時のことを考えると大分おとなしくなったように感じる。体調でも悪いのか、という問いはもう耳たこなのか苦笑を返しながら「だいじょうぶ」と返事をするのだ。 あともう一つ。上の空の状態が多くなった。今のようにぼうっと窓の外を見ていたり、話しかけてもどこか生返事だったり。 「つーか、いつまでここにいるんだよ」 「何言ってやがる。ここは俺とお前の部屋だろうが」 「まぁ、そうだけどさ。お前にはもう一つ帰る場所があるじゃん」 くるりとこちらに顔を向けて、すっと細められた翡翠の瞳と八の字に下がった眉。一体何何故そんな顔をするのか。眉間に自然と皺がよるのがわかる。 「言いたいことがあるならはっきり言えと言ったばかりだろうが」 「……」 「おい、ルーク。最近お前少し変だぞ。帰還して成人の儀を迎えたあたりから…」 「お前は」 悲しげな表情のまま片割れの小さな口が震える。少し伸びた朱色の髪が綺麗だ… 「お前はこの国の王だろうが」 「は…」 「戴冠式を終えたその日。王妃と…ナタリアと結ばれただろうが」 ブーツの底が床を叩く音がする。ゆっくりと俺の横を通り過ぎて少ししたところでそれは止まった。 「お前の帰るべき場所は、俺じゃない」 最後に聞いたのは、木製のドア特有の音と、扉が金具とぶつかり合った音。 (あの日俺は姿を消した) あれから俺は、自分の愛おしい片割れに出会っていない。 |