もふもふ



ED後





突然目の前につき出された"それ"は、くりくりとした純粋で大きな瞳を目の前にいる俺に不思議そうに向け、首を傾げる動作をした。それにあわせて同時に首を傾げる一月ぶりに会った朱色の髪を持つ青年をこめかみに揉むように置いた手のひら越しに睨み付けてみても、そんな事を気にもしていないのか、つき出したままだった"それ"をそっと俺の膝の上に置くと満足げに笑った。





「で、なんだこれは」

「かわいいだろ。うさぎっていうんだって」

「俺が聞きたいのはそれじゃねぇ。ブウサギだかうさぎだかしらんが、これをどうしたんだと聞いている」

「あっひっでー!ブウサギと一緒にすんなよ!」

「人の話を聞け!この屑」




俺の膝の上にいるうさぎとやらを「こんなにかわいいのに…」とぶつぶつ言いながら屈んで撫でるお前のほうが可愛いだとかおかしなことを思ってしまった自分に心の中で激しく首を振り、目の前で揺れる朱髪をゆっくりと梳くと不思議そうにこちらを見る純粋な瞳に吸い込まれそうになりながらもなんとか理性を保つ。




「最近アッシュが疲れてるのが遠目に見てもわかるくらいに酷いってメイドや母上に教えてもらって、なんかいい方法ないかなーってこの間からマルクトに視察に行ったときガイに相談したんだよ」

「ガイ…だと」

「うん。でさ、動物?セラピーなんてどうだーっていうもんだから」

「…アニマルセラピーのことか?」

「そう、それだ!」



普段お互いに公務でせわしなくしているものだからこのようにして二人きりで休憩時間を過ごすのも久しぶりだというのに…ほかの男の名前を出してくるとは…
ガイの名前が出てきた途端に不穏な空気を醸し出したアッシュには目もくれず、うさぎを撫で続けている朱髪を持つ青年…ルークは堅苦しそうにしていた礼服の襟元を撫でているのとは別の手で緩めるとふう…と軽く息をつきアッシュの掛けている上質なソファーの隣に腰かけた。
 アニマルセラピーは動物との触れ合うことでその効果を発揮する。ガイは一体何を考えているのか。どうせ俺が動物と触れ合っている様子を想像して似合わないとひとり笑っているに違いない。次にマルクトに行く時に覚えていろよ、と心の中でガイへの殺意を抱きながら隣に腰かけたルークへと視線を向ける。




「少しでもアッシュが癒しとか感じてくれればいいなーって。な?」

「…」

「だんまりかよ。うさぎがかわいそうだろ。ぺしぺし」

「…」


うさぎの両前足をもってうさぎに同意を求めるルークは顔がゆるんでおり、癒されているのはお前の方だろうとは思ったがあえて口に出さずに黙っていると、毛で覆われたうさぎの足で頬に触れられた。ふわりとした感触に思わず目を細めて余韻に浸る。気持ちがいい。




「この子たちは昔ホドに生息してたんだって。ホドの崩落でほとんど消息を絶ってたんだけど最近になってシュレーの丘あたりに生息してるのを発見したらしいぜ」

「そうか」

「可愛いだろ?」

「そうだな…大人しくていいんじゃないか?どこかの誰かと違って」

「それ、俺のこと言ってるだろ…あだっ」




軽く睨みつけてくるルークの額に指を弾かせれば余程痛かったのか涙目になりつつ再び睨まれたが、戯れだと理解しているのですぐに笑顔に。ふと膝の上の温かみがルークの腕の中に戻っている事に気が付けば、異様に膝の上が寒く感じてきた。




「おい屑。膝が寒いだろうが。そいつ抱いたままでここに座れ」

「!…はいはい」

「返事は一回でいい」

「はーい。ガイに一匹もらってきて正解だったな。よかった」

「…俺は別にお前が傍にいてくれるだけでも十分癒されているがな」




口元に笑みを浮かべてうさぎを大事そうに抱え直して甘えるように擦り寄ってきたルークの耳元に吐息交じりにささやいてやれば、


「そ、それならいいんだけど…なんだよ!て、てて照れてなんかないからなっ」



ルークの腕とアッシュの胸板に挟まれたうさぎは二人分の温もりに心地よさそうに寝息を立てていた。



end


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ただルークに会えなくてさみしかったアッシュさんの話
うさぎが最近可愛くてかわいくて…アニマルセラピーって犬のイメージがあるけどあえてうさぎで





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