ふっ、と



本編中




アイテム補充の為に偶々よっていたグランコクマでアルビオール二号機を見つけてしまった時には思わず顔を思い切りしかめてしまった。二号機があるということはこのグランコクマのどこかに己の劣化模写人間である、あの屑がいるということだ。どういうことか、あの屑への苛立ちの対象であった以前のよそよそしさはなりを潜め、今ではすっかり飼い主の後を懸命についてくる小型犬のようになってしまったのだ。いつだったか忘れたが、この間は砂漠でしつこく付きまとわれて二人して迷子になってしまうという失態をさらした。

「あ、アッシュさーん。今さっきそこでルークさん達を見かけましたよー」
「二号機があるんだ。いても不思議じゃねぇだろ。鬱陶しい」
「ええー、そんなこと言わずにお話でもしてきたらいいじゃないですか」
「あんな屑と何を話す必要がある」
「情報交換とか…」
「それはこないだ陰険眼鏡としたばっかりだ」

アッシュさんが行かないならおいらが行きますー!なんて言いながら走り去っていったギンジも相当鬱陶しいが…よほどあの複製品がお気に入りらしい。なんでも命の恩人なんだとか。

「どいつもこいつも気楽なもんだ」

三号機に乗り込み、ドカリと乱暴に座席に着く。抱えていた袋を後ろの座席に放り、一眠りしようと瞼を閉じたのと同時に聞き覚えのある声が耳をついた。何故ここにいる…今し方ギンジがお前を探しに行ったばっかりだろうが!
そうっと窓に顔を近づけて声のした方に視線を投げてみると予想した通りの朱色。ぼうっとしているのか口を半開きにしているのがわかる。一時して三号機を見ている翡翠色の瞳がすっと細められ、口元にゆるく笑みが浮かんだ。此方側からは死角になって見えないが、隣に誰かいるのだろう。横を向いて口を動かしてはころころと表情を変え始めた。ギンジだろうかと思ったがそれはないと自分の思考を蹴落としてもう少し視野を広げようと動こうとしたときに、彼奴が横に一歩ずれたことによって隣にいた人物が露わになった。ゆるくカーブを描く美しい金色の髪をした、元婚約者だ。

「ナタリア…?」

てっきりあの親馬鹿の元使用人野郎かと思っていったが、これは予想外だった。複製品とナタリアが二人だけで一緒にいるのは個人的には珍しい画だと思う。あまり見たことはない。その時ぱっと顔を上げたナタリアの視線と俺の視線とが音を立てそうな勢いでかち合ってしまった。反射的に慌てて顔を逸らすが、時既に遅しとはこのことか…テンポの速い足音がだんだんと近づいてくる。ああ、もう後ろまで来てしまっているんじゃないか?

「アーッシュ!!!」
「喧しい!この屑が!!」
「いるならいるって言えよ!」
「貴様なんぞに誰が言うか!」

はっとして窓の外に視線をやるといい笑顔で優雅に手を振っているナタリアがいた。どういうことだ、ナタリア。まさか俺にコイツを押し付けて仲間のところに戻る気なのか?いや、待ってくれ…コイツの相手なんざあの使用人にでもまかせておけば……畜生。

「なぁアッシュ」
「なんだ!俺は今虫の居所が悪い」
「ナタリアがさ、お相手は大事になさいってアッシュに伝えるよう言ってたんだけど…お前ナタリア以外に大事な人できちまったわけー?」
「は?」
「え?」
「は」
「え?」

何を言っているんだこの出来損ないは。茫然とした表情を浮かべているこの屑も酷い顔だが、それ以上に酷い顔をしている自信がある。それはどういうことだと説明を求めようにも何故か言葉が喉につっかえて出てこない。それどころかこいつの瞳を真正面からじまじまと見ることになってしまい、鼓動がドクドクと早鐘を打っているではないか。身動きすら出来ないほどに固まってしまった俺を見て、何を思ったのか心配そうに俺の頭を撫でてくる屑の手に少しの安心と満足感がじわじわと這い上がってくる。

「アッシュ?大丈夫かよ…おーい」
「……」
「ぐえっ!って、ええ!?」

やっとのことで動いた体はどうしたことか、頭を撫でていた手を捉え、そのまま己の膝の上へと複製品の体が崩れ落ちるように仕向けた。俺の顔の両脇に手をついて状態を支え、疑問と羞恥から困惑しつつも赤面している複製品の表情にやけに満足したが、まだ何か物足りない。この小動物を滅茶苦茶に可愛がってやりたい。

「あ、あのさっ…」
「あ?」
「その、アッシュにできた大事な人が…俺だったら、いいなー…なんて、」
「馬鹿かお前は」
「ですよねー」
「お前に決まってんだろうが」
「…ほえ!?ああああああああっしゅ!??」

自然とポロリと零れ落ちた言葉はすんなりと己の胸に落ちた。どうやら懐かれてまんざらでもなかったらしい自分自身もあれだが、このどうしようもなく構い倒したくなる気持ちは、どうやらお前だけに有効なようだ。それは大事な人ということなんだろう、ナタリア。だったら、もう遠慮はしないと弧を描く口元を隠しきれない。ふっと見えた窓の外は、こいつと同じ朱色だった。

「ああ、苛々する。お前のせいだ、滅茶苦茶に可愛がってやる」

まずはその煩い口から塞ごうか。




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ssに置くつもりが予想以上の長さになった…




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