白に紛れるED前 二人で同棲 二人でこの地に帰還して一月が経った。少しずつ消えゆくホドの瓦礫を見下ろせるこのタタル渓谷に以前あったセフィロト。その奥の奥へ進んだ場所にある小さな小屋に自分の複製品である彼と共に過ごしてもうそんなに経ったのかと目を伏せた。 元々は登山家が利用する小さな宿屋だったらしく、必要最低限のものは揃っていたが長い年月によってだろうか、所々朽ちている様な箇所や埃が目立った。二人でこの小屋を見つけた時にある程度掃除や片付けはしたが、それでも難しいものは破棄せざるをえなかった。近くにこの小屋を囲むよううに川が流れている事が何よりの救いだろうか。魔物はあまり寄ってくることはないし、土もいい土なんだろう。どこからか飛んできた種が成長し実をなしている。小鳥の囀りが聴こえる時間もとうに過ぎ、半身の髪を思わせる夕焼け空も黒い世界に包まれたというのにその半身が小屋に帰って来ないことに不安の苛立ちを募らせる自分は相当に半身であるルークに依存しているのだなと改めて感じた。 「ちっ…どこいきやがったあの馬鹿」 此処にいても埒があかない。探しに行こうと上着をひっかけ木造の扉を開けば、古ぼけたギィという音が尚なお自分の中にある不安を掻き立てる。出入り口を出てすぐの小さな橋を渡って駆け出そうとしたところに目に入ってくるものがあった。月明かりだけでぼんやりとした視界に淡い光がちらつく。よくよく見たら白い小さな花が集まって咲いている箇所がある。そういえば帰還してすぐ足元に咲き誇るこの白い小さな花に触れ、ルークが懐かしそう何かを言っていた記憶がある。あの時は状況も分からずそれどころじゃなかったからしっかりと聞いていなかったが、きっとルークにとっては特別な花なんだろう。淡い光を放つその花を軽く撫で、再び駆け出した。 なんとなく場所には予想がついた。雑草や石の転がる坂を駆け下りるのは面倒で段差を飛び下りては目的の場所へ近づく。以前セフィロトがあったあたりに来るとさすがに魔物の姿は見えたが、実力の差をわかっているからだろうか。襲いかかってくる奴はいなかった。大きく開いた坂を駆けあがると目いっぱいに広がる白い花を淡い光が覆っている様が美しい場所に出た。 「おい!ルーク!!」 返事もしやがらねぇのかあの屑は!歩を進めてみるもそれらしき姿は目に入らなかった。自分たちの髪色はどこへいても目立つものだ。あの優しい朱を探せばいい。淡い光に包まれて暗がりに混じって探しにくいなんてことはないはずだ。 「ルー…!」 一際奥へ行ったところに朱が見えた。横になって白に紛れるその姿は非常に儚く今にもその淡い光と共に消えてしまうのではないかと恐怖心からの焦燥に駆られる。自分が自分ではないかのように心臓は早鐘を打ち、少し寒いくらいの渓谷だというのに汗がじっとりと身に纏わりつく。今のこいつも以前と変わらぬレプリカだ、その儚さは瘴気中和を行った際に身を以て経験している。いやだ、あいつが目の前から消えてしまうのがこわい。失うのがこわい。愛しい人が…消えるだなんて…胸が苦締め付けられおかしくなってしまいそうだ! 「おい!起きろ、起きてくれ!!」 「……」 「ルーク!!」 「……」 「っるー、く!!」 「……」 「この、屑!!!!」 驚くくらい喉が詰まって声が出ない。いくら揺すってもピクリともしない様子に焦りは募るばかりで冷静ではいられない。勢い余って頭を思い切り叩いてやると痛みに顔を歪め、ルークがやっと表情を表した。 「起きろっていってんだろうが!!!!」 「っ…」 「ルーク!?」 「ってー…なにすんだよアッシュ!」 「ルーク!ルーク!!よかったっ…」 「は?ちょ、何…え?」 目を覚まして飛び起きたルークに一気に力が抜けて、叩き起こされた事によってか少し怒ったルークの肩に額を押し当てた。ルークが慌てているのが肩につけた額から伝わる。畜生、てめぇ寝てただけか。滅茶苦茶焦ったじゃねぇか。先ほどまでの自分の行動が恥ずかしくなって頬に熱が集まる。ルークには見えない体勢で助かった。 「あっしゅ…?」 「うるせぇ。黙れ」 「どうしたんだよ一体。ってもう夜!?俺どんだけ寝てたんだろう…うわぁ」 「てめぇが帰ってこないのが悪いんだ…」 「も、もしかして俺を探しに来てくれたとか?」 「…ふん」 「ごめんなっ!うっかり寝ちゃっててさ。でも、探しに来てくれてありがとう」 「こんな時間まで寝てるやつがあるか!」 「だ、だってさー。懐かしくて…」 髪を梳かれる感覚があった。ルークが俺の髪に触れるのが好きなのは知っているし、何よりそれが気持ちよくて目を細める。 「ここ、俺の始まりの場所なんだ。ある意味終わりの場所でもあるのかな。屋敷に侵入したティアと超振動起こして飛ばされて…初めて屋敷以外で出た外の世界が、セレニアの花が咲き誇るここだった」 「ここからいろんな事が始まって、いろんな人と出会って…そして、大きな罪を犯した」 「アッシュにも沢山迷惑かけた。本当にごめん」 ゆっくりと俺の背中にルークの腕が回される。次第に強くなる腕の力はその言葉通り俺への詫びだろうか。それとも体が冷えて温もりを求めているからだろうか。いや、きっと色んな感情が綯交ぜになってしまったんだろう。こちらからも抱きしめ返してやると嬉しそうにさらに擦り寄ってくる。 「そして旅の終わりの場所もここだった…エルドラントで一度消えてしまった俺がここに帰還できたことで、ある意味また始まりの場所になるのかな」 消えた、という言葉が耳に入ると同時に無意識に体が震えた。ふと、「ふふ」と小さな笑い声が耳を掠めた。なんだ、幸せそうに笑いやがって。こっちはお前のことが心配で仕方なかったというのに。 「俺、アッシュに愛されてるんだなーって思ったら嬉しくて」 「誰がそんなこと言った」 「だって俺が心配で探しに来てくれたんだろ?」 「うっ…」 「だいすきだよ。アッシュ」 そういって頬を俺の髪越しにすりよせてくるルークを更に強く抱きしめた。「苦しい」なんて抗議の声は知るか。そんなに嬉しそうなんだ。嘘をついてんじゃねぇよ。 「屑が…さっさと帰るぞ」 「うん」 大きい迷い子はどちらなのか。手を繋いで歩いていくのは俺たちの新しい居場所。 -------------------- 二人で同棲してる様をかきたかったのに…あれ、なんか違う…だと |