ああ、ED後 アッシュとルークが可哀想ですが最後はハッピーエンド 良く晴れた今日の日、バチカルで新しい王が誕生した。 深い赤の髪と凛とした碧の瞳を持った"聖なる焔の光"という名を持った若い王が。 しかし王になったというのにその方の表情は常に浮かぬもので、妻である王妃にまでもそれが伝線したかのように暗い表情が目に付いた。聖なる焔の光の意を持つ名を呼ばれても反応を示すことは極僅かで、振り向いたとしてもどこか遠くを見つめてしまっている碧の瞳には王になる前までの力強い輝きはなく、淀んだ色が漂っていた。 とうとう城の椅子にも自室にも腰を落ち着けることなく日々行方を暗ますようになったのはつい最近の事。 「ルーク。ルーク…ルーク」 「そんなに言わずとも聞こえております」 「ルーク、ルーク」 「それは私の名ではありません。陛下」 「やめろ…俺はアッシュだ」 「貴方様の名はルークです」 「ルークはお前だ。お前がルークなんだ」 「その名は元の持ち主である貴方様にお返し致しました。私は名も無きただのレプリカでございます」 「ルーク…!」 こちらに背を向けて一向に振り向こうとしない背に再度呼びかけるが反応は変わらずで、こちらを向こうとしない。静かに風に煽られる朱色の髪は数年前と同じく襟足で切りそろえられており、癖毛なんだろうそこは鳥の尾のように跳ねている。 「キムラスカは貴方様をお選びになったのです。私は国王陛下のレプリカ…それは変わらぬ事実です。さあ、城にお戻りください。皆様が心配なさいます」 「嫌だ。お前がいない居場所など帰りたくもない」 「貴方様が王位継承なされた日、私と貴方は今までとは違う関係になった筈です」 「だから何だ、地位がなんだ、そんなのどうでもいい。今までと同じ様に隣にいてくれ」 「それはなりません。貴方様にはキムラスカの未来が…奥方がおられます」 「俺はお前さえいればそれでいいんだ…!お前しかいらない」 「私は屋敷におりますでしょう。お傍にはいられませんが貴方様の近くにはおります」 「そんなの…屁理屈だ。以前のように俺の隣で笑っていてはくれないのかっ…ルーク!」 セレニアの花が舞うこのタタル渓谷はルークの始まりの場所であり終わりの場所でもある。ルークは夜中屋敷を抜け出してはここに足を運んでいるとラムダスから聞いた時からいつもルークを追いかけて自分もここへ足を運ぶようになった。 耐えられないのだ。ルークが傍におらず、恋人としての関係も切り裂かれてしまってできた居場所が。民が王として自分を選び、前国王陛下がそれを推してとうとう戴冠式へと繋がってしまった。何度も断った。何度も何度も。しかし国はそれを許さなかったのだ。王家に連なるものとしての使命なんだと、俺とルークの関係を知っている父上も辛そうに顔を歪めていたのも記憶に新しい。ルークは父上の軍の元帥としての階級を譲り受けた。 ルークが愛おしい。ルークに会いたい。触れたい。抱きしめたい。唇を合わせたい。全て許されないのだ。 * アッシュがいつもいつも声を掛けてくる度に、溢れだしそうになる感情を必死に抑え込む事で余計に苦しくてたまらない。アッシュの顔を見たら泣いて喚いてきっと大変なことになってしまうんだろうと容易に想像できる。 俺だってアッシュと一緒にいたい。触れ合いたい。抱きしめてほしい。唇を重ねてほしい。けどそれは許されないんだ。 アッシュはこれから王としてキムラスカをナタリアと一緒に支えていくんだ。跡継ぎの問題もあるしきっと仕方のないことなんだろう。諦めたくない。諦めたくはないけど、許されない。これほどまでに胸が締め付けられることがあるのだろうか。愛おしい人はすぐ後ろにいるのだ。自分を求めてくれている声が毎日俺に響いてくるんだ。 アッシュとの距離をとることで、このどうしようもない感情を抑え込んでいるというのに、その声で決心が鈍りそうになる。 「陛下、ここは冷えます。私が護衛致しますのでバチカルへ戻りましょう」 「駄目だ」 「アルビオールをすぐに呼びます」 「駄目だと言っている」 「…仕方ありませんね。ここの近くにレプリカのために作った町があります。まだ小さなものですがそこで休みましょう」 「敬語なんて使うんじゃねぇ…!ここでいい。お前と二人きりでいられるのならば」 「………」 夜の景色に広がる海がルナの光を反射してキラキラと輝いている様をぼぅっとみていた。だから気が付かなかったのだ。アッシュの気配がすぐそこまで来ている事に。 背後から回された腕に捉えられた時にはもう逃れようがなかった。絶対に離すまいとする様は必死にしがみついてくる幼子のようで、それほどまでに彼が限界なのだと悟った 。反射的に振り向いて合ってしまった碧の瞳はひどく淀んでいて、目を離すことができなくなってしまう。 (ああ、馬鹿。なんて顔してんだよ…そんなの見たら俺…俺っ…) ボロリと大粒の涙が頬を伝う。それを優しく拭いとってくれる指先が懐かしい。ずっと求めていたもの、許されなかったもの。腰から腹に回された腕の温もりが全身に伝わっていく。今まで抑えていたものが一気に溢れだした。もうぐちゃぐちゃで自分でも何を言っているのかわからず、ひたすらアッシュにしがみついた。 「ばかっ…ばっかじゃねぇの!どうすんだよ、もうこんなになっちまったら離れられねぇよ!!頑張って決心したのに…ばかばかばかばかあっしゅのばか!!!! 「…ルーク」 「なんだよバカッシュ!」 「やっとこっちを向いてくれた…ルークっ」 「苦しい、苦しいからちょっと腕…ぁ、んっ…」 抱きしめてくる腕の力が強すぎて必死にもがいていたら、振り向かせるように顔を動かされて噛みつく様に唇を塞がれた。久しぶりの口づけは勢いに反して、ひどく温かいものだった。今までの隙間を埋めるように口内をじっくり味わわれて酸欠と羞恥で頬が紅潮する。名残惜しげに離れた唇を一つ舐めて口付が終わった。 「もう、バチカルには帰らない。ずっと考えていた…今度は二人だけで旅をしよう。そのあとは、どこかで二人だけで暮らそう」 「…"アッシュ"の好きなようにしてよ。俺はどこまでも一緒に行くから…」 「ああ。ルーク」 向かい合ってもう一度抱擁をした後、俺たちは歩き出した。 今度は愛おしい人と一緒に。 ------------- 途中で再び迷子になりました。話がまとまらないにも関わらず無理やり一つに収めたので二つに分けて書けばよかったと少々後悔中です… |