小説 | ナノ


「あ、黒木さん」

「ん?誰です?…もしや、女子高生にナンパされました?」

「え…、黒木、さん…?」



誰、この人…?黒木さん、じゃあ、ない、よね…



「オーイ冷…って…兄…?」



げんなりした顔をする多分本物の黒木さん。
私は黒木さんの所に急いで駆け寄って行って、黒木さんに耳打ちをした。



「ね、黒木さん。あの人誰?」

「…言いたかないが、俺の兄だ。目の色見てみ?違うから」



ジーッと黒木さん(兄)を見つめると、確かに澄んだ青い目をしている黒木さんとは違って、お兄さんは真っ赤な瞳をしていた。



「どうも、黒木 煬(ヨウ)です。君が冷ちゃんですか。猫がいつもお世話になってます」

「“ちゃん”はやめて貰えますか。冷で良いです。いえ、私の方こそいつもお世話になってます。あ、水沢 冷です。宜しくお願いします」

「ご丁寧にどうも。では冷さんでどうですか?僕も煬で良いので」

「ならそれで」



黒木さんは始終ため息を吐いていたけど、煬さんは気持ちが悪い程ニヤニヤと笑っていた。



「兄、いい加減ヅラ取ったらどうだ?」

「おっと、煬さんも忘れてました。猫と同じ髪型は楽しくて楽しくて…」



ウィッグだったのか…。
ウィッグを取った煬さんの髪型は、肩より少し長い黒木さんと同じ黒髪に、黒木さんと違ってストレート。
服装も、黒木さんはいつも大抵は白衣だけど、煬さんは灰色のスーツだった。……さっきは白衣だったけど。
黒木さんと同じ顔なのに、こうも違うのか………ついでに性格も。



「…何しに来たんだよ、兄…」

「何しにって猫の顔見に決まってるでしょうー。ついでに冷さんの顔も見てみたかったので」



語尾に音符が付きそうな話し方をする人だなぁ、と煬さんと黒木さんを見比べる。こうして見ると、顔は本当にそっくりだ。



「…オムライスで良いか?良いよな」

「勿論です。猫のオムライスですかぁ。久し振りですねぇ」



嬉しそうに笑顔を見せる煬さんに、黒木さんはハァ、とひとつため息を吐いて、厨房に向かっていった。





11.06.15


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