イベント部屋 | ナノ



今は丁度、七夕シーズン真っ最中。輸入品である笹がそこかしこにしなやかに立っており、願いを託された短冊が空を見上げる様にひらひらと葉と共に風に揺れていた。
正直言わせてもらうと、本当は冒険者に七夕も何もない。だけれど夢ぐらい見たっていいんじゃないかと思わないでもなかったりする。ヨイことヨイヤミなら一緒に願いを書いてくれそうだけど。しかも持ち前の背の高さで短冊結んでくれそうだけど。

とりあえず短冊に願いを書いたはいいのだけれど、私じゃ背が足りなくて、届きやしない。下の方の葉にはもう願いがいっぱいで、うちのギルドの冒険者が書いたと思われる短冊も大量にあった。残しときなさいよね、まったく!
生憎頼りにしているヨイは今日は用事があるからとか言って私の傍にはいてくれなかった。つまらないの。


「…迷った」


気晴らしに元老院でうろうろしにきたら今度は迷った。実は私、まだあのお婆さんのとこにもちゃんとたどり着けないのよ…。
とりあえず誰かに道を聞かなきゃならないわね、と周りを見回す。だけれどここは人通りが悪いみたいで誰ひとり来てくれやしない。ああもう、気が利かないわね!
ヨイは道を覚えるの得意だからきっとすぐ連れ出してくれるのに。とか言ったってしょうがないわね。涙目にならない内にとりあえず歩き回りましょ。


「あ、笹だわ」


まさか元老院に笹があるなんて思いもしなかった。しかも願いを込めた短冊をくくりつけたのは見栄っ張りの衛兵たち。競い合ったみたいにやたら高くに短冊がぶら下がっている。もしかして、ここなら私も…?
突如、隣の扉が開く。私は驚いて奇声を上げた。


「…! お前、何故ここに?」
「へ…? あ、クジュラ?」


今度は会うかもしれないとは思いつつ、絶対に頼らないと心に決めていたクジュラとの遭遇。誰かが仕組んだんじゃないかと思うくらいに、変に事が運ぶ。
クジュラは相変わらずの低音と威圧感で私に近づく。無駄に背が高いからちょっと後退り。初めて合った時も、気心の知れない相手と一緒にいてストレスを感じながら、更にコイツに警戒心抱いて、こうなってたかしら?


「それは俺が東方の国から持ち帰った植物…、まあ今の季節は馴染みの笹だが、もしや短冊が結べないのか?」
「ふん、アンタが思うより不器用じゃないわ」
「…意外だな」


しゃがんで下の方の葉に短冊を結ぶ私を見てクジュラがぼんやりと呟く。このアングルは見下されてる感じがして嫌だわ…!
クジュラはその冷たい瞳(まあ実際クジュラはそんなつもりは一切ないんでしょうけど)のまま口を動かす。威圧感がかなり私にのしかかっている事も知らずに。


「お前なら絶対に上がいいと駄々をこねるイメージだったぞ」
「クジュラ、アンタほんと失礼」
「間違ってはいないと思ったのだが」
「別にいいでしょうよ!」


認めたな、と相変わらず無表情でクジュラが私を見てる。流石の私もこの状況には耐え難いものがある。少し気まずい雰囲気が漂う中、こんな仏頂面の恐い顔した男とふたりきりなんて状況、かなり耐え難いものがあるわよ…!
いつも余裕面したヨイなら切り抜けられるのかしら?でもクジュラの威圧感は相当よ?


「…あ、」
「…予想通りの展開すぎてため息しか出ないぞ」
「悪かったわね!」


短冊は私の願いは星に告げるつもりがないのかはらりと元老院の床に落ちた。しかもご丁寧に紐までちぎれて、私は固まるしかなかった。
クジュラが口元を押さえて震えている。絶対に、いや確実に笑っている。本当にコイツは性格が悪い。クジュラは私の短冊を拾い上げ、まじまじと見つめた後、どこからか紐を取り出してきて短冊の穴に通し、私には到底届かない様な高い場所…しかも一番上にくくりつけた。クジュラは私に優しく微笑んで、お前の願いならきっと叶うと、いつもはもっと厳しいのに優しい言葉をかけてきた。
こんなに優しいクジュラは何だか気持ちが悪い。もしかしてこれって夢なのかしら?


「まあ、お前の努力も必要だがな」


“全員無事に帰ってきますように”
勿論私含めて、全員。誰ひとりギルドメンバーが欠けちゃいけない。クジュラだって自分の部下が沢山亡くなった時は辛そうに眉を潜めてたから、私にらしくない事を言ったのかしら?


「…ねぇクジュラ」
「どうした?」
「何でもひとつ、言う事聞いてあげるから私に道案内しなさい」
「この似非織姫め」


言いながら手を引くクジュラは星よりも願いを聞き届けてくれた。





―――

仕事終わったら夢主がいた、みたいな




12.06.29


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