今日はあのヴェネチアの幽霊紳士さんの所に遊びに来させていただいてる。一応、チョコも持って。
「なまえさん」
「はい…!」
彼は笑顔なのに緊張するのはやはりこのチョコが本命で、そしてこれを渡す相手が彼だから。
「申し訳ありませんが…、私にココアを淹れてくださいませんか?急に甘いものが欲しくなってしまって…」
「いえいえ!お安いご用ですよ。いつもコーヒー淹れていただいてますし」
何故ジズ様のお屋敷にココアがあるのかとかのツッコミはあえて入れずに、緊張をほぐすのも兼ねてココアを淹れる。確かにあるよね、急に甘いものが欲しくなる時…。
「はい、どうぞ。熱いので気を付けてくださいね!」
「フフ、ありがとうございます。なまえさんはとてもお優しい」
何か含みのある笑いでジズ様は私の淹れたココアの揺れるカップを見つめていた。甘い匂いがこちらにも漂ってきていて、私も自分の目的を忘れない様にカバンに入れたチョコを見た。
「ウフフ、なまえさん気づいていらっしゃいましたか?」
ジズ様の問いの意味がわからなかった私が首を傾げると、ジズ様は元から上がっていた口の端を更に吊り上げて、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「このココア、なまえさんのバレンタインチョコになってしまってます」
ハッピーバレンタインですよ、今日は
嬉しげに笑うジズ様が続けた。まだ本命を渡していなかったのに…、と複雑な気持ちになる私を見てまたジズ様が喋りだす。ここまでくると少しウザい。
「おやぁ?なまえさんもしかして、私にチョコレートを持って来てくださってたんですか?」
ジズ様が小首を傾げるという可愛らしいポーズで聞いてくるのでコクリと頷けば、ジズ様が私の隣に瞬間移動してきた。恐い。
「では、本命の方をいただくとしますか」
幸せです、なんて呟くジズ様に私もですなんて返したのはいいのだけど、何で本命ってわかったんだろ?
―――
ジズ様ってストレートだったり回りくどかったりめんどくさそう
12.02.22
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