今日は夏祭りだ。と言っても行くつもりのない私には関係のない話であったりするのだけれど。
今日の私のバイト先、つまりブルーキャッツは静かだった。いつも静かだが、今日はいつも以上に静かだ。
いつも檜山さんが趣味でかけてるBGMもない。
隣でキュッキュときれいにカップを拭いているマスターこと檜山さんを見ると檜山さんは扉の窓から見える空を見上げていた。
「よかったのか、祭りに行かなくて」
「資金がないですからねー…。人が居なくても、私ここ好きですし」
それに、檜山さんと居れる、なんて言葉を飲み込んで檜山さんの為にカップにコーヒーを注いだ。
「後でお金ならちゃんと払いますから」
「資金がないんじゃなかったのか?」
「失礼な。コーヒー代ぐらい持ってます」
「フッ。払わせないがな」
薄く笑って、檜山さんは私の注いだコーヒーを飲んだ。
「払わせない、とは?」
「いいって言ってるんだ。俺も丁度、飲みたかったしな」
「私が檜山さんに奢りたいんです」
「俺はなまえに奢らせたくない」
「何でです」
「俺のプライドの問題だ」
折れるしかなかった私は、カウンター席に勝手に座って、またボーッと少しずつコーヒーを飲む檜山さんを見つめた。
「檜山さんが大きいです」
「なまえが座っているからだろう」
「久しぶりにここ座りました」
「いつもは真面目に立っているからな」
久しぶりにカウンター席に座って檜山さんを見ると、あの時以上に格好よく見えた。
突然、眩しい光。
「今年だから見れるな」
いつの間にかコーヒーを全て飲み終えていた檜山さんに手招きされ、外へ。
「花火だ」
「…あ……。見れたんですね、ブルーキャッツから」
「今年だけな」
様々な色の光が打ち上がって消えて打ち上がって消えて。
「綺麗、です」
「祭に行けないんだったら、これだけでも、と思ってな」
パンパンと打ち上がる花火を見ていると、告白花火が打ち上がった。
「貴女が好きですって……くくくくく…っ!ロマンスですねぇ」
「……フッ、本当、大胆だな。俺にはアレは真似できない。ああするぐらいなら直接言うな」
「今時?って思うかもですけど手紙の方がアレよりはいいですよ、羞恥もリスクも」
くくく、と押さえきれない笑いをこぼす私。
檜山さんは少しもどかしそうに苦笑いを浮かべていて、声をかけてみた。
「檜山さん?」
「何だ?」
「どうしたんですか?何か言いたそうですけど」
「いや、俺もあのぐらい大胆に行けたらいいのにな、と思ってな」
行動力があるのかないのかわからないな、とこぼす檜山さんに、私もそろそろ檜山さんに告白しなきゃなぁ、とぼうっと考えるのだった。
―――
ネタバレしそうになるのを必死に押さえて書きました
檜山さんとブルーキャッツで何か飲みたい
でも多分緊張しちゃって飲めません
11.08.13
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