「なまえは食わんっぺ?」
差し出された骨付き肉はすでにT-ボーンのかじりかけ。私は黙って人懐こい笑みを浮かべるT-ボーンを見つめた。
「食べないっぺか? 美味いっぺよ?」
グイグイ押し付けてくる彼から逃げるように後ずさって、ため息をついた。不思議そうな顔をされても、しょうがないものはしょうがない。
「なんだべ、腹減ってねーのか?」
「……お腹は空いてるよ」
「ん? なら食えばいいだろ、ほれ」
「あのねT-ボーン……むぐっ」
T-ボーン、本当に容赦ない。T-ボーンはウスターの言うところのアホキャラであり、自由気ままの田舎っ子だ。だとしても、私の様子からもう少し悟ってくれても良いのではなかろうか!
食べてしまった……と思いながら咀嚼をして、悶々といまの状況を考える。いまT-ボーンに食べさせられたお肉は美味しいけれどT-ボーンの食べかけなわけで……。
「ああああ!!」
「うおっ!? なまえどーした!?」
「うううう……あの、T-ボーン聞いて。美味しいものを食べさせてくれるのは嬉しいけど、できれば食べかけじゃないのが良かったな〜と……」
「オラの食べかけが嫌だったべか……ゴメンな」
しゅん、と頭を下げる彼に変身していないのに犬耳が見えるのは私の気のせいとして。彼は厚意でやってくれたから、私の拒否は予想外だったのだろう。
だが……これじゃあT-ボーンとの間接キスじゃないか。そればかり意識してしまって、どうしようもなくなってしまう。
「オラとおんなじモン食ってほしかったんだ……すまん」
「う……っ、その……こっちもごめん……。T-ボーンと、その……」
「うん?」
「……間接キスに、なっちゃうでしょ」
一拍置いて、彼の首がこてんと傾げられた。
「なんだあ、それ?」
「……はああ、T-ボーンやっぱ知らないかあ」
「知らねー」
脱力から、ガクッと肩を落とす。うん、知ってた、知ってたけども。「なんだそれ?」と説明を求められるも、そんな羞恥プレイ堪えられるか。
「いいよ。いいの、もう。ありがとね、T-ボーン」
ニット帽越しに頭を撫でてやれば、つり目がちの瞳がじっとこちらを見る。ぽよっとしているのが可愛い。
「そうなのか? まあ……それならいいけど。また何か嫌なことあったら教えてくんろ。なまえの嫌なことはしたくねえ!」
そういう気持ちがとんでもなく嬉しいのは、惚れた弱みか。T-ボーンはおバカなんだけど、気持ちは優しくてすごくいい子なんだ。
「……T-ボーン、何か食べさせてよ」
「おっ、いいぞ。んーと……あ、これはまだ食ってねえ」
あーんも恥ずかしいけど、これでいいのだ。T-ボーンが屈託なく笑うから、いいのだ。
―――
T-ボーン可愛いしいいヤツですよね
19.06.29
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