絵とか載せるリアタイ | ナノ


2023/11/11 21:35


「よお、来てやったぜ」

 にんまりとした意地悪そうな笑みとともにやってきたのは、わたしにとっては毎度おなじみとなりつつある俺様何様ギレン様である。
 なぜかコンビニのビニール袋を片手に下げたその人は、我が物顔でわが家の敷地を跨いでいくが、もうそれについて自分からなにかを言うことはない。あんまりにもいつも自然にやってのけるものなので、いまさらなにか言う気も起きないというのが本音だ。

「ところでお前、これは知ってるな?」

 これまた我が物顔でどっかりとイスに腰かけたギレンさんがビニール袋から愉快そうに取り出したのは、見覚えのある長方形の箱。

「はあ、ポッキーですね」
「よし。なら話は早いな。ポッキーゲームするぞ」
「……はい?」

 ポッキーはわかる。今日がポッキーの日なのもわかる。だけど、そこからポッキーゲームになるのはわからない。
 目をしばたたかせても、ギレンさんの得意げな……もっと言うとドヤ顔はそのままで。むしろこちらを挑発するような目線まで加わっているのだからどうしようもない。

「いや、えっと。ギレンさんこそ、それ知ってるんですか」
「あ? なにをだよ」
「なにをってゲームをですけど」
「知ってるに決まってんだろ。ポッキーの端と端くわえて、食べ進めていく。……いかにもお前がやったことなさそうだなぁ?」

 なんでこの人楽しそうなの。そんな疑問をひとまず追い出すように、痛くなりそうな頭をふるりと振った。
 ひとつ息をついて、口を開いた。そりゃあやったことなんてありませんけど。そう言おうとしていた口の中は、目の前のイタズラな笑みによってすっかり甘い味を広げられていた。

「サービスだ。チョコレートのほうやるよ」

 言いながらさっさと自分も反対方向をくわえているギレンさんは、いつのまにかイスからお尻を離していた。わたしとの背の差を自身の腰を折り曲げることでなくしているが、その様子は見ているこちらが腰の心配をしたくなる。
 抗議の意とほんの少しの心配を込めてギレンさんに目線を向ければ、思いの他近くにあるみ空色に、すぐ目線を逃がさざるを得なかった。
 そんなわたしをギレンさんが笑ったのがポッキーの揺れで伝わってくる。ほんと、この人は。
 こんなのすぐに噛み切ってしまえ、と、自身の唾液でふやけたビスケット部分に歯を立てれば、目の前の彼が異様なほどに早く食べ進めていることに気づく。いや、気づいたときにはもう遅いのである。

「おし、俺様の勝ちだな」

 勝ち誇ったような、なんとも愉快そうな笑み。
 一口が大きすぎですとかいう文句はわたしの口の中の甘い味に封じられてしまって出てこられない。
 一瞬、触れたような気のする唇。わたしはそこを押さえることもできずに目線をあちらこちらに泳がせていた。やっとだせたのは、さまざまな感情を乗せるだけで伝えることはできないため息だけで。
 勝ちもなにも、最初からずーっとあなたのペースでしたよ。
 言えない文句も負け惜しみも、機嫌なおせと楽しそうにポッキーを口に突っ込んでくるこの人には絶対に届くことはないのだ。




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