いつかの夢 琥太郎(過去拍手)


こたろうはお墓まで幸せにならないままずっとずっと生き続けます

こたろうはどんな思いにも鍵をして、なかったことにして、時々空を見上げながらそのことを思い出しては胸を苦く焦がす感覚を持ち、独りで涙を流します
けれど、その想いが誰かに伝わることはありません

溢れてしまった想いを涙にして外に出し、またしっかりと鍵をかけるからです
その涙は涌き水のようで、自然と湧いてくることを止めることはできません
止めようとしても止めようとしても溢れてきます
いつもこたろうは心の中でないています
いつもこたろうの心は痛みを抱えています
いつもこたろうは心の痛みをないものとしていました


大切な人やものがあれば、自分が壊してしまうかもしれない。壊してしまうくらいなら、最初から壊れていたほうがいい。そもそも壊れてしまうものは持たないほうが良いのだとこたろうは思っています
だから自分にとって大切な人が出来なかったことに安心しながら、独りで淋しく微笑みながら逝くのです



こたろうにとって大切なものは宝箱に入った薄い薄いガラスの玉のようでした
それは光の当て方を変えるだけで、幾千幾万の色が現れます
こたろうにとって大切な大切な宝箱でした

しかしガラスの玉は少し手に力を入れるだけで粉々に砕けてしまいます
こたろうは一度壊してしまったガラス玉を拾おうとしました
しかし粉々に砕けたガラスの破片はこたろうの指先を傷付けて赤い赤い血を生み出しました
やがてその怪我も癒えます
けれど破片が指先に入り込んだまま治癒してしまうところもありました
表面では治癒したように見えて、実際はこたろうが指先を動かす度に苦痛を与えて、いつまでもじくじくとした痛みがありました
今なお、その傷は痛むのです


こたろうにもずいぶんと昔に自分にも大切な人が出来るかもしれないという選択肢はあったけれど、それは選べませんでした
しかしこたろうは選べないと思っているだけで、本当は選ぶことができました
視界の隅にちらりと映る選ぶことができるという選択肢を、あえて視界を狭めて見ないふりをしました

こたろうの死に、涙を流す人はたくさんたくさんいるでしょう
けれど、こたろうは自分自身の死に涙は流さないでしょう
がむしゃらに生きることも、生き急いで死ぬことも諦めていたからです



こたろうは幸せになっていい存在です
こたろうは幸せにならなければいけない存在です
こたろうは幸せになる存在なのです

やがて、こたろうは幸せになります
大切な人の隣で、大切な人の幸せと自分の幸せを願うのです



いつかの夢



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