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本編のシリアス展開なんて知らないよ!細かいところはスルーしてね!
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季封村にももう冬が訪れようとしている。まだ雪がちらつくことは無いものの、山に位置しているためかやはり寒い。 こうしていると長かった夏もずっと前のように思えてくるから不思議だ。
あの鬼斬丸を守護者と珠紀で封印したのが夏。 長きにわたって因習と封印に縛られていた村を解放したのは珠紀達。 ようやく学生は学生らしく学業に専念……している訳でもないが、とにかく世界の命運を左右する役割とはおさらばしたのだ。
「さぁ今こそ私を玉依姫様と崇め奉りなさい!」
と守護者の前で珠紀が声高らかに言い放ったのはそんな時期だった。 何があったのかと言えば、話はつい一時間程前に戻る。 珠紀が提案した、もう気分はすっかり冬であることと野菜を沢山食べたいといった理由に美鶴は納得。その日の夜ご飯を鍋にするということになった。 しかし、白菜が足りない。珠紀は学校帰りに商店街に寄り、足りない分の白菜を買ってくると美鶴と約束したのだった。
ちょうどこの時期、商店街では福引きをやっている。しかしこの村に長く住む者は、まずこの福引きに手を出さない。 というのも、この福引きであたりを引いた人が極端に少ないからだ。 勿論あたりを引く人が沢山いれば、それはそれで問題になってしまうが……それにしてもあたりが少ない、一説にはあたりが入っているかどうかすら怪しい福引きだった。
しかし珠紀は昨年のこの時期にはまだ季封村には越して来ていない。このいわくつきの福引きを知らない。買おうと思っていた白菜よりもかなり多くの量を買ってようやく福引き一回。 白菜は少しくらい多くても食べやすい野菜であるので時間をかければなんとかなる。せっかく余計に買ったのだから当たるといい。 そんな軽い気持ちでがらぽんを勢いよく回す。
「と、特等!一泊二日のスキー旅行セット!」
商店街におじさんの声が響き渡ったのはそれからすぐだった。
*
「ということは、珠紀さんは商店街の福引きでこのスキー旅行セットを当ててきたんですね……?」 「そうなの。引いた私が言うのもあれだけどびっくりしたよー」
おーちゃんと戯れる珠紀から「目録」と書かれた封筒を預かった美鶴は目をぱちくりさせながら言った。
「と、とりあえず村を離れるのであれば守護者の皆さんをと話しあいましょうか」
そんなことがあり、話はようやく冒頭へと戻る。いつものように守護者六人を宇賀谷家に集合させた珠紀が言ったのだった。
「珠紀先輩……それ本当に凄いことですよ」 「そうなの?それさっき美鶴ちゃんにも言われたけど…」 「そうか。珠紀は知らないと思うがあれは基本的当たらない。今までは恐らく当たりが入っていないだろうと言われていた」
はてどういうことだと感じた珠紀を見て祐一は捕捉を入れた。
「で、当ててきたのが特賞の一泊二日のスキーセットってことか!たまにはお前もやるなぁ。 まぁ俺様には敵わないけどな!」 「良いんですか?真弘先輩。先輩の言動次第では、先輩もお留守番になりますよー」 「うっ……」
真弘の発言に対していじわるくにやにやと笑いながら言うと、真弘はややばつのわるそうな顔をして黙った。
「で、私はせっかく当てたんで行こうと思ってるんですけど皆さんはどうですか?」 「良いと思いますよ?皆さんが行くなら私は留守番してようと思いますし」 「えー。美鶴ちゃんも一緒に行こうよ」 「いえ、村の守護者がそんなに抜けちゃうのは流石にそれはまずいですよ」
それもそうですね、と卓。 確かにいくら鬼斬丸を封印したからと言っても、現時点ではまだ季封村は典薬寮の監視を受けている。 それは同時に季封村はまだ危険であり、監視をつけなければならない状態にあると言うことだった。 そんな状態で村の有力な人が全員いなくなるのは少しまずい。
「ですから私は留守番しています。皆さん楽しんで来て下さい」 「…美鶴ちゃん、本当にそれでいいの?」 「えぇ、久しぶりにゆっくりしようかと思ってるくらいです」
だから皆さんは楽しんで来て下さい、と美鶴は付け加えた。
「お土産!いっぱい買ってくるからね!美鶴ちゃん待っててね」 「はい。待ってますね」
そんな訳で珠紀と守護者六人での一泊二日のスキー旅行が成立したのだった。
「あー、腹減った。飯食うぞ」 「俺も赤頭に同意だ。腹減った」 「珍しく気が合うじゃねぇか、灰頭」 「鬼崎さんも狗谷さんも少し待ってて下さいね。直ぐに準備しますから」
美鶴は拓磨と遼を見て台所へ向かう。 少し多めに買ってきた白菜が、みんなで食べる鍋のせいであっという間に無くなり、むしろ足りなくなったのは言うまでもない。
*
「お、思ったより広いなぁ」
特賞を引き当ててから数日後、早速スキー場に珠紀と守護者達はいた。 来るまでにも問題は(主に真弘に)あったのだが、ここではひとまずおいて置くことにする。
「食事は十八時からですのでそれまでにお戻り下さい」
仲居さんの丁寧な説明をほとんど聞いておらず、いつものように騒ぐ数人は卓が一睨みする。 何の例えにもなっていないが、その様子はまるで蛇に睨まれた蛙である。
「では、ごゆっくりお過ごし下さいませ」
仲居さんは騒いで説明を聞かない人にも動じず、淡々と説明して去っていった。
「ふー。これでとりあえずゆっくり出来ますね。私は温泉に入って来ます」
と卓。
「俺様はボードしてくる」 「真弘先輩がボードなら僕はスキーですね」
真弘と慎二はそれぞれボードとスキーを取り出し、用意をし始めた。
「かまくらを作ろう」
そう言い出したのは祐一。
「俺は部屋にいます」
拓磨はどうやら部屋にいてごろごろするらしい。
「……」
そんなみんなの様子を見ながらため息をついてふらりと部屋を出たのは遼だった。
さて、私はどうしようかな。
→卓さんみたいに温泉に入る →真弘先輩とボードをする →慎二君と一緒にスキーをする →祐一先輩のかまくら作りを手伝う →拓磨と部屋でごろごろ →遼の後を追いかける
+++++++ なんとか全員喋らせることができて良かった… 最初、拓磨と遼が完全なる空気でした
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