恋せよ青少年 平→千(三万打)
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毎日電車で合う彼女は、うちの学校の生徒らしかった。 決まって三十二分発、五両目の一ドア付近にいる。初めは学校の女子用制服と襟元にある自分と同系色のバッジを見て、「うちの学年の女子かー」なんて思うだけだったのに、気が付けば名前を知っていた。 女子生徒の名前は雪村千鶴と言うらしかった。
*
(あ、今日もいる)
彼女、雪村千鶴は学年どころか学校の有名人だった。勉強もできる、運動だって悪くない。性格だって良いし、友人は沢山いる、だなんてなんて住む世界が違うできた子なんだろう、なんて平助は思う訳だった。
普段、千鶴と平助が乗る電車はすいていて席もちらほらと空きがある。けれど彼女は座らないでずっと外を見ている。不思議な子だなぁ、と思っていたのだ。 彼女は時折、何か面白いものを見つけたのかふふっと控えめに笑う。
(あ、また笑った。可愛いなぁ……)
そんな千鶴の様子を携帯電話の画面越しにひっそりと見るのがここ最近の平助の電車内での過ごし方だった。当然のことながら、携帯を開いてはいるが、使っているわけではない。開いたままの携帯電話の画面は真っ暗なままだ。 がたん、と電車が揺れて窓の外を見ていた千鶴は車内に視点を移す。
(や、ば……目が合う……!)
そして千鶴と目が合いそうになると慌てて反らすこともしばしば。 平助は慌てて反らすため、それはあからさますぎる。つまり、周りから見ればばればれなのだ。 人というものは、自分を凝視する存在には敏感に反応し気がつくようで、初めは気がつかなかった千鶴も、ずっとこちらを見つめてくる平助に疑問を持ち、その存在を知っていた。
*
(人身事故だなんてついてないなー)
平助は電車を待ちながらため息をついた。いつもは空いていて空席がいくつかあるが、今日ばかりはそうもいかないようだ。
(この分だと、今日は千鶴には会えないだろうな……)
ホームには人がところ狭しと並んでいる。こんなに混んでいる電車に乗るのは久しぶりだ。これ絶対乗客率百%以上だろ、と平助は呟いた。 駅に付くと電車は多くの人を吐き出して、そして再び吸い上げる。乗り込んで一瞬、自分の身体の落ち着くスペースを探すためにもぞもぞとしていたが、やがてそれも落ち着く。車内をふと見ると平助は近くにある人物を見つけた。
(あれって……?)
サラリーマンに囲まれるようにして、あの目立つシュシュをつけた控え目な少女を見つける。そう、千鶴であった。
「……大丈夫か?」
千鶴の周りにかかる圧力をほんの少しでも和らげてあげようと、窓に手を付いてやる。平助が動いたせいで周りの客は迷惑そうな顔をしたが、そんなことは平助にとってはどうでもよかった。平助が今助けたいのは、千鶴ただ一人だったからそんなことは気にならない。 始めは声をかけられたことに気がつかなかったけれど、千鶴は身体の周りにかかる圧力が和らいだことにより平助の存在に気がつき、言葉を返した。
「えっと……同じ学年の藤堂君、ですよね……?ありがとうございます」 「ちづ、……雪村さん大丈夫?てか何で俺の名前知ってるの?」 「藤堂君は有名な人ですから。同じ学年の人ならきっとみんな知ってますよ? それに藤堂君は朝電車で私のことを見ててくれてるますよね?だから知ってるんです」 「そ、そうだったんだ……」
千鶴が自分のことを知っていてくれたことに嬉しさを覚える反面、毎朝のことは全部ばれていたことに驚きと、ある種の恥ずかしさを覚えていた。
「ちづ、雪村さんはさ、」 「千鶴でいいよ」 「ほんと?じゃ俺も藤堂君じゃなくて平助って呼んでよ」 「じゃあ平助君で……」
ちょっと恥ずかしそうに自分の名前を呼ぶ千鶴に顔に熱が集まるのを感じた平助は顔をそらした。
(千鶴、やっぱり改めて見ると可愛いなぁ……)
自分も男連中に混じると小さくて、チビチビなんて言われるけどやっぱり違う。女の子って小さいだけじゃなくてこんなに柔らかくて可愛い。単純に小さいだけじゃない。
(あと二駅)
満員電車がそんなに好きではないけれど、このときばかりはもう少し乗っていられないことを悔やんだ。
恋せよ青少年
+++ 大変遅くなりまして申し訳ない限りです 平助は等身大の恋をしてくれる→日常的なこと?という思考でこんな感じになりました 電車通学かどうかと言われると怪しい感じがしますが……
未倉千桜さん、企画参加本当にありがとうございました!
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