高鳴る心音が煩い 宮月
※ゲーム中のプール掃除イベントの話。そしてわりとありがち
それは犬飼君と白鳥君のひょんな一言から始まった。そう、掃除という名の水かけ合い。
「なぁ犬飼」 「ん?なんだよ」 「これでもくらえっ!!」
白鳥君に呼ばれて振り返った犬飼君は思いっきり水をかけられて顔からぽたぽたと水を滴らせている。 だけど、もの凄く良い笑顔。光ってる。きっとすぐに犬飼君の逆襲が始まるに違いない。
「おい白鳥ー。もうびしょ濡れだから辞めようぜ……とでも言うと思ったか!うぉりゃー!!」
言うが早いか、犬飼君は白鳥君に水をかけた。 二人の水の掛け合いはどんどん激しくなり、今や遊ぶのは止めろとたしなめていた宮地君や自分に被害がなければ良いと言っていた梓君、さらには巻き込まれた部長も参加している。 それに始めは手で掛け合っていた水も、梓君が参戦した辺りからホースになり、バケツが出て来るのも時間の問題だろう。
じりじりと身を焦がすように照り付ける太陽に私は負けそうになる。 拭っても拭ってもどんどん汗が出て来る。ふと暑いなぁと思う。夏なんだから暑いのは当然のことだ。 だけど、それと同時にびしょ濡れになってはしゃいでいる彼等が少し羨ましいと思う。びしゃびしゃになりたい、と言う訳ではないけれどみんなでわいわいとやるのは凄く楽しいから。 遠慮しているとかそういうのではないけれど、私には水をかけて来ない。 こういうところで私はやっぱり違うんだなぁと実感する。
「夜久さん」
えいっ、という声と同時に先程の白鳥君程ではないけれどいくらかの水がかかる。
「部長……?」 「遊ぶなら皆で遊んだ方がいい」 「……はいっ!!」
それからは何と言うか大変だった。そう、お祭り騒ぎ、っていう表現がぴったり。 先輩も後輩も関係なくみんなで騒いで水を掛け合ってずぶ濡れだ。髪だってびしゃびしゃ、洋服だってびしゃびしゃ。 至るところから水が滴り落ちる。 大したことではないのに何故かそれが面白くて、私達はずっとずっと遊び続けた。
不意に。
「夜久、」 「どうしたの?」
そう声をかける宮地君の方を振り向けば見てはいけないものを見てしまったかのようにばっと顔を背けた。彼にしては珍しいその態度は私を不安にさせた。 どうしたんだろう。
「宮地君どうしたの?」 「い、いや!何でもない!」 「本当に?」 「あぁ!何でもない!」
何だか変な宮地君だ。私が目を合わせようとしてもあからさまに視線をそらす。 真っすぐで、時には頑固でさえある宮地君は普段こんな態度をとらない。まさに目が泳いでるのだ。
「顔赤いよ?具合悪いんなら休んでた方が良いよ」 「具合が悪い訳ではない」
どうにも納得いかないけれど、本人があそこまで大丈夫と言っているのだから本当に大丈夫……なのだろうきっと。 でも宮地君は何度も何かを言いたそうにこちらをちらちらと見ている。
「言いたいことがあるならきちんと言った方がいいよ」
そう言うと、宮地君は何かを決意したらしく、よし、と意気込んでからいつものように私を見た。 そう、この目。私は宮地君のこの目が好きなのだ。
「夜久、その……言いにくいのだが見えている」 「……宮地君、主語が無いよ?」 「そ、その……下着が……」
そういわれてふと自分を見る。
「あっ……」
確かに透けてしまっている。
「で、でもキャミソール着てるし……」 「……そ、それにしても破廉恥だろう!」
宮地君に指摘されるまでは気がつかなかった。けれど今まで、他の人達にこの姿を曝していたかと思うと申し訳なく思う一方で、やはり恥ずかしい。 一度恥ずかしいと思うとなかなかその思いは無くならない。宮地君の顔が少しだけ赤い気がするけれど、きっと私もそれに負けず劣らずいい勝負に違いない。 だって顔に熱が溜まっていくのが自分でも分かるから。
「とっ、とにかくこれでも羽織っていろ!そうしたら少しは隠せるはずだ!」
ぐい、と私の手に押し付けられたのは先程まで宮地が着ていたそれだった。私に渡して去る後ろ姿が少しだけ可愛くてかっこいい。 あぁ、もうなんて 高鳴る心音が煩い のでしょうか。
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