幸せすぎて 颯月(企画)


「月子さん、」

若干艶がかった声で颯斗は目の前にいる愛おしい妻の名前を呼んだ。少し細められた眼は、何を求めているのか。颯斗の求める何かを読み取り、少し顔を赤らめながらも月子の背はぞくりと震えた。
おかしい。どこでスイッチを入れてしまったのか。心当たりの無い月子は頭の上に疑問符を浮かべるだけ。

「はっ、颯斗君どうしたの?」
「別にどうもしていませんよ?あなたの名前を呼んだだけですよ。ただ……」
「ただ?」
「ベッドであなたを呼ぶように呼びましたが」

どういうことかを理解した月子の顔は先程よりも赤く染まる。
そんな月子を満足気に眺めた後、ふっと微笑んで月子の手をやや強引に引いた。突然引っ張られた月子は当然バランスを崩し。颯斗の上に乗っかるような形になる。

「月子さんは大胆ですね」
「大胆って……」
「こうして僕の上に乗っているんですよ?」
「で、でも引っ張ったのは颯斗君だよ……?」

大胆と言われたことで月子の顔は羞恥で赤くなり。そんな月子を見てやはり楽しそうに颯斗は笑った。

「えぇ。ですが僕の上に乗っているのは、紛れもなく月子さんです」

よね?と颯斗は続け、体制を変えながら月子に顔を近付けた。

「は、颯斗君顔が近いよ……」

顔と共に身体も密着させる。倒れないように支えられていると言っても、逃げることも敵わない。無意識に高まる鼓動が颯斗に気がつかれないように、せめてもと手で遠慮しがちに颯斗の身体を押し返した。
しかし、身体を離すことを颯斗は許すはずもなく。むしろ力を込められたのだった。

「ドキドキしてますね」
「…だ、誰のせいでこうなってると思うの?」

さぁ?とくすりと笑い、いよいよ明確な意思を持って颯斗の手が体をまさぐり始めた。
月子が倒れないように支えていた手は腰に回り、頬に添えていた手は頭の後ろに移動した。始めはやや遠慮がちに身体をまさぐっていたが、だんだんと遠慮が無くなる。

「……っんっ……」

その間にも何度も颯斗のキスがふる。動く手は抵抗できない程なのに、落ちてくるキスは優しい。
これから何をしようとしているのかは嫌でも分かる。

「颯斗君、ま、まだ時間が早いよ……?」
「何の問題もありませんよ」
「え、そ、そうじゃなくて」
「ほら、こっち向いて下さい」

頭の後ろに回っていた手が顎にかけられ、またキスされる――!!
月子はそう思ってぎゅっと目をつぶったが、なかなかキスは来なかった。どうしてだろう、と恐る恐る目を開けば、困ったような顔をする颯斗が目の前にいた。

「……父様、母様に何してるんですか?」
「……何でもありません。月子さんと仲良くしているだけです。子供はもう寝る時間ですよ」
「ま、待って……」
「はい、父様。分かりました」

普段父の言うことを素直に聞くように言い聞かせていたことが、こんな風になるなんて。助けて、と月子は縋るような目で退室する息子を見た。このまま颯斗のペースだと、どんな展開になるのか……想像に難くない。

「ですが父様。僕には母様が困ってるように見えます」

そうでしょ?と向けられた視線に月子は激しく頷いた。

「そ、そうだよ!」
「父様……」
「……そこまで力一杯頷かれると少し傷つきますね……」
「別に颯斗君が嫌いな訳じゃなくて、颯斗君にこういうのされるのも嫌いじゃなくて、で、でも……」
「大丈夫ですよ、分かってますから」

颯斗は諦めたように、でも少し満足したように微笑む。しょうがないですね、とでも言うように。

「ほら、あなたもいらっしゃい」
「はい、父様!」

颯斗の腕の中に愛おしい息子が飛び込んで来て、愛おしい妻と一緒に抱きしめる。
どうしようもない幸せに颯斗は目を細めたのだった。











++++++++++
三万打企画の颯月でした。
自分の中で颯斗は、色っぽい展開では月子を手の平で転がして、月子が何を言っても口で巧みにかわしてしまうイメージなんですが、いまいち口で上手く丸め込むのが表現出来たのか……?みたいな感じでした。策士、みたいな感じ。とにかくそらそら難しい。さすが番長。
子供が出てきましたが、あえて名前は出さないようにしてみました。あと颯斗と月子のことをそれぞれ父様、母様と呼んでると良いなぁみたいに思いました。間違ってもパパはないんじゃないだろうか。もし父様じゃなかったら、父さん母さんかなぁとか思いつつ

桔梗さん、企画参加ありがとうございました!



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