日曜日午前7時20分 琥月



とん、とん、とんとリズミカルな音を聞いてゆったりと意識は浮上する。

いつもぴったりと寄り添うようにある、温もりが無かった。手を伸ばしてもただ終わりの無いベッドが広がるだけで、探している'それ'は指先に触れない。月子が慌てて目を開けるとそこに愛しの人はいなかった。
琥太郎が寝ている場所に触れるとベッドにはまだやんわり温もり残っている。琥太郎がここから出たのは少し前らしい。

いつもならば寝ている月子の寝顔を堪能するか、深い眠りについてるというのに。どこに行ってしまったというのだろう。
まだぼんやりとしている頭で、咄嗟に月子は時計を見た。日曜日、午前7時20分。休日にしてはいささか早いようにも感じるが、たまには良いだろう。

「早起きは三文の得って言うしね」

もっとも早起き、という程早起きをしている訳ではないけれど……ぐっと月子は一回伸びをする。と、知らず知らずのうちに深呼吸もしていたらしい。
肺の中の空気が入れ代わる。綺麗で、透明な空気。
彼の温もりが無いベッドにいてもしょうがないのだから、月子はとん、とん、と響く音の元へと向かった。

「おはようございます」
「あぁ、起きたのか。にしても随分と早いな。もう少し寝ていると思った」
「琥太郎さんこそ今日は早いじゃないですか」
「珍しくな」

キッチンに立つ琥太郎の姿と何やら漂う甘い香りが普通の休日と違って日常から切り放されたもののように感じる。

「琥太郎さん、私代わりますから」

手に巻いてあるゴムを外し、手櫛で髪をなんとなく整える。こういう時に長い髪は手早く調えられないので少し不便だ。
作業しやすいように髪を纏め、エプロンを取りに行こうとすると。

「いいんだ。お前はソファーにでも座っていなさい」

琥太郎は月子が何をするために動いたのか分かっているかのように言う。

「いえ、でも琥太郎さんにやってもらうのはなんだか申し訳ないというか何と言うか……」
「俺が作りたいから作ってるんだ。お前は気にしなくていい」
「でも……」
「頑固な奴だなぁ」

ふふ、と琥太郎は柔らかく笑う。ほら、また甘い香りが強くなった。

「じゃあお前は後ろにいて見ていなさい」
「……はい」
「不満そうな顔をしているな」
「だって……琥太郎さんがてきぱき料理進めちゃうから手伝う隙が見つからないし……」
「なんだ、そんなことを気にしていたのか。後で手伝ってもらうことがあるから安心しなさい」

本当ですか!と月子は表情を明るくした。自分にも手伝えることがあると分かって嬉しかったのだろう。
琥太郎は、料理が上手い。姉があのような人なので基本的なものは一人で作ることが出来る。
しかし月子はお世話にも上手いとは言えない。毎日こうして練習をしているものの、なかなか上達せず、出来るものはボロボロになった料理ばかり。
申し訳ない、もう少し何とかしなければと思いつつ琥太郎に出しては暖かく見守られている毎日だ。もっとも琥太郎はまずいまずいと言いつつもおいしそうに食べている。

「そういえば琥太郎さん、何を作ってるんですか?」

てきぱきと手を動かしている琥太郎に月子は聞いた。

「わからなかったのか?フレンチトーストだ」
「フレンチトースト……」
「なんでまたフレンチトーストなんですか?」
「数日前に食べたいって言ってただろう?」

そういえば、と月子には思い当たることがあった。
料理技術向上のために読んでいた料理雑誌にフレンチトーストのページがあったが、まだ月子の料理のレベルではきちんと作りきることができない。ぽそりと食べたいなぁと呟いたのだ。

「よし……出来た」
「本当ですか!」
「お前の幼なじみより上手くは作れなかったがな」

そうは言っても出来たフレンチトーストは月子がつくるものよりも上手だ。

「錫也は何て言うか……もう軽くプロのレベルですからね」
「お前に手伝ってもらうぞ。ほら、」

味見をしてみろ、とたっぷりハチミツのかかったそれを差し出す琥太郎。

「ほら、早くしなさい」

ハチミツが零れるから、と付け足す。

「どうした?食べないのか?」

男なのにごつごつとしていないほっそりとした綺麗な指。
それに甘い甘い、琥太郎の笑み。
月子はハチミツよりも甘い、それを食べた。






720







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書いてて思いましたが、 琥太郎 弱点 なくね?(・∀・)
なんとなく、で琥太郎は行動しそうです
日曜日の私の起床時間は基本的にお昼近いので、7時20分とかめちゃめちゃ早起きです。そしてあわよくば二度寝をしたいとも。そんな駄目人間。

相互の中野とお互いにリクエストをし合って書いたものでした。ちなみにお相手は琥太郎、指定は「料理をする」でした。



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