ホワイトデー苦悩


土方がそのことを思い出したのは、その日の少し前だった。忙しい仕事の合間にふらりとデパートに行ってみれば「バレンタインデーのお返しに!」とでかでかと看板が掲げてあり、そういえばもうすぐなんだよなぁと思ったのだ。
一ヶ月程前に千鶴に手作りのチョコを貰った。チョコ、と称してしまえばそれまでだが、土方のために甘さは控え目で食べやすいようになっていた。
むやみやたらと甘くなく、食べやすい。土方のために作られたただひとつのチョコ。それは土方の中でいたく好評だった。気持ちがこもっていれば、なおさら。
ここまで気を遣って、くれたもののお返しだ。土方もそれなりのものをあげたかった。

「今日びの女子校生は何を貰ったら嬉しいんだ……?」

食べ物を貰ったからお返しも食べ物だろうか。次々に思い付くプレゼントの案。しかしどれもピンとこない。
ただ、バレンタインデーにチョコを貰ったからと言ってホワイトデーにクッキーを渡す、といった野暮なことはしたくなかった。
第一それでは面白くない。
まさか自分がホワイトデーのお返しを何にしようかと真剣に考える日が来るとは思ってもいなかった土方は苦笑した。

「あれ程不必要だと思ってた行事だったのにな」

その価値観を変えたのは千鶴だ。昔の自分が今の自分を見たら何と言うのだろう。ふと笑みがこぼれた。しかし。

「うーん……。さっぱり分からねぇな……」

いまだに思い付かないプレゼントの案。隣を見れば、公共の場で人の目も気にせず自分達の世界をつくりあげているカップルがいた。普段なら、そういうことは家に帰ってやってろ!というところなのだが……。幸せそうな二人をちらりちらりと見ながら、何か参考になりそうなものを探す。
派手な服、はあまり喜ばないだろうし、本人に面と向かって何が欲しいと聞けば何もいらないです、傍にいてくださるだけで充分です、と言うだろう。こういうときはこれが欲しいです、と言ってくれた方が楽なのだが……こういうところは千鶴の美徳だ。
ふと、土方の脳裏をあるものの存在が掠める。

「あれ、なんてあいつにぴったりじゃないか……」

自分にしか贈れないあれ。思い立ったが吉日。もっとも日数的にそんなにあるわけではないが……土方は立ち上がった。これを見た千鶴が嬉しそうに微笑むのを想像しながら。





*




しばらく前から千鶴の機嫌が良い。機嫌が良い、と言うよりにこにこしている千鶴をよく見かけるようになった。と平助は言う。

そして同じような時期に酷く形の似た千鶴はネックレスを、土方はリングををし始めたらしい。
目敏い沖田が、

「千鶴ちゃんは土方先生と似てるネックレスしてるんだね」

と意味ありげに指摘し、千鶴を赤面させたらしい。しかし赤面しつつも千鶴は幸せそうに微笑んでいたという。










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久しぶりに土方を書きましたが大丈夫でしょうか……?エセ土方になってないと良いなぁ……
そもそもサイトを始めたもとのジャンルが薄桜鬼で、最萌えが土千ってことを今更ながら思い出しました。オイ
一年前のバレンタインデーに土千を書き、一年後にホワイトデー土千を書くというまさか(笑)でした。もっともホワイトデーから二日程過ぎてしまいましたが。
ありがとうございました!



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