まだ弱いままの心 真珠



突然色んなこと言われて色んなもの背負わされて泣きたい気持ちなんだって知ってる、辛いだろうと思う。
珠紀にかけた言葉。それは、過去に自分も思ったことだった。



*




贄の書。
この古い、ともすれば紙の塊を何度、目にしたものだろうか。その度に抑えようのない恐怖と不安が身体を支配する。
紙を墨で目茶苦茶にしても、決して交わされた内容は消えてはくれない。
それどころか。
尚更刻みつけられるような感覚さえするのだ。

先程言い合いをして倉を出てきたと言えば良いが、実際は逃げてきたも同然だった。
冷静に物を考えることなんて出来ず、頭に血が上っていくのが感覚で分かる。

お前に俺の何が分かる。世界の為に死ねと言われて育った俺の、何が分かる。と珠紀に叫びたくなる気持ちを抑える。
存在する目的が、封印の為だけにあると言われて生かされてきた俺の、何が分かる。
封印の為に、村の為に死んでくれなんて言われて納得出来た訳じゃない。

本当は怖くて、恐ろしかった。でも幼い頃から言われてきて、ああそういうものなんだって自分に無理矢理納得させた。
勿論納得なんて出来なかったけど世界はそういうふうにして存在してるから仕方ないってどこか諦めていた。
そうしないとやっていけなかったからだ。
でもこれは俺だけが思っていたことじゃないんだと思う。拓磨も、祐一も、慎司も、大蛇さんも。


自分がちょっと頑張って何とかしたところで悲しいことに世界は何も変わらないのだ。
俺が封印の贄となっても今までとなんらかわりなく世界は幸せを享受し続けるに違いない。



「先輩はそれに立ち向かっていけるって思ってた。強い人だと思ってた」

そうあいつは言った。
珠紀言われて改めて気が付くと同時に情けなくて、でもどうすることもできなくてもどかしくて、憤った。
できたら、とっくになんとかしてるから。どうしたら良いんだよ。分からない。分からないんだよ!


いくら調べても意味なんてない。あいつらには勝てない。もうだめかもって思ってる。
そう珠紀に言った。諦めればそれで楽になってしまえるのにあいつは違った。
あれは、最後まで足掻き続ける目だ。俺が昔持ってたそれにして俺が俺であるために必要なもの。
一体いつからその光は俺の中から失われてしまったんだろう?


「くそっ……」

木の幹を力いっぱい殴りつける。無力な自分が悔しくて、けれど同時に腹立たしくて。


倉で珠紀が贄の書を手にしていたときは取り上げたいとも、恐ろしいとも、何も思わなかった。
ただあるべき場所に、あるべきものがあって、あるべき者が読んでいる。そうとしか思えなかった。
あいつは、春日珠紀であると同時に玉依姫なのだから。


「でもどうせだったら知って欲しくないよなぁ……やっぱり」

脳天気で勝手で純粋。必要以上に関わろうとする。けれどどこか憎めない。
普通の場所ならその性質は寧ろ歓迎すべきことだが、この季封村では存在そのものが危険でしかない。
珠紀に関われば絶対自分も辛い思いをすると分かっている。珠紀も俺らに関われば辛い思いをするだろう。
だけど最近は珠紀のことを考えてばかりだ。認めたくないが、どうやら俺はあいつのことが気になっているらしい。

「なんでまたあいつ……なんだろう」

玉依姫とその守護者ではなくもっと別の出会い方をしていたらどれだけ良かっただろう。
ノリも良くてあいつとはもっと上手くやっていけると思えた。


「くそっ……」


なんでこんなにも世界は理不尽なんだろう。なんで運命に縛り付けられるんだろう。
答えは一向に出る気配さえなく。
それを汲み取るかのように空もまた曇ったままだった。










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緋色の欠片の真弘独白(もどき)でした。
真弘悲恋EDは、泣いた。もうなんて言うか真弘の生き方そのものに泣いた。
幸せになってくれよ真弘



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