戯言/カミサマ 僕+出夢



「ねぇ、出夢くん。君は、
カミサマって奴の存在を信じているのかい?」

そう聞いたその瞬間、空気が凍った様な気がした。




*

ふと疑問に思ったことを軽い気持ちで聞いた言葉のはずだった。いつもするくだらないやまもないオチもない意味もない日常の延長線上にある会話。
しかし次に彼が上げた顔は匂宮殺戮奇術軍団期待の新星にして人喰としての顔。それに違いなかった。
無表情でこちらを見ている。怒っているのか、嬉しいのか、悲しいのか、全然分からない。まるで感情という感情を全て消し去った能面のようだ。
先程までの雰囲気は何処にも無い。多分、この瞬間に日常は異常に、非日常にすり変わったんだ。

目がこちらを射る様に見る。僕は瞼を閉じることも出来ず、何かに縫い付けられたかのように指一本たりとも動かせない。
喉の辺りをつっと落ちていく冷や汗。
あぁ、視線だけで人を殺せるのはこういうことなのかと僕は本能的に理解した。
どんなに気さくで優しくても彼は所詮自分とは住む世界の違う人間だ。圧倒的なその差においては何かを動かすことも呼吸することも存在することも許された事でしかないのだ。
彼は今、良くも悪くも不安定だ。彼の対となっている彼女が消えたから。

「い、出夢くん?」

言葉を発そうとしない声帯と喉を振り絞って、震える声で彼に問い掛ければ、びくりと体が震え、何度か瞬きした後はっと我に返った様に僕を見るいつもの匂宮出夢に違いなかった。

「ぎゃははっ、おにーさんそんなに怯えてどーしたの」

犬歯が見えるほどまで頬を引き上げて笑う。
あぁ、いつもの匂宮出夢だと、どこか安心する。だけど、胸のどこかにちくりと刺さる違和感、ささくれは確かに存在していた。ただたんに元気が無いとかそういったことではなく。

「出夢くんどうしたの、大丈夫?……変なこと聞いちゃってごめんね」

僕らしくもなく出夢くんの肩に触れようとした時だった。
ぱしり、と乾いた音が部屋に広がったのは。差し出した手を拒絶するように払いのける。
彼は反射で軽く叩いたのだろうと思うのだが、それでも僕の手の甲は赤くなっていた。

「あっ……おにーさんごめん。……そんなつもりじゃ無かったんだけど」

彼は自分がしてしまったことに驚いているようだった。
強いことだけを求め続け、強いことだけに特化した存在、それが匂宮出夢。

強いは弱い。
弱いは強い。

いつだったか彼等はそんなことを言っていた。誰よりも強い彼は、同時に誰よりも弱いのだ。比較対象がなければ、強さも弱さも分かりはしない。
つまり弱い存在があり続けないと強くいられない。それが、どうしようもない彼の絶対的な弱さなのだ。弱さであり半身を失った彼は今、自分がどれだけ弱いのかをきっと感じている。
だから、そんな今だからこそ掛けてはいけなかったはずの言葉を僕はかけてしまった。

「出夢君、さっき言ったことは忘れて」
「おにーさん、大丈夫だから。本当に。
僕は……神様は……いない。と思う。もしいたら僕と理澄を作らなかったから」
「……」

僕は出夢君が言ったことに何も言葉を返すことができなくて。けれどどこか影も形も存在もない「カミサマ」に憤りを感じた。やり場のない憤りをどこかに発散することも出来ず、僕はただただ唇を噛み締めた。

それは出夢君が死ぬたった一ヶ月程前のことだった。










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随分と前に書いた物を加筆しました。
ので、出夢といーちゃんのキャラを完璧に忘れてる……。と言うよりもはやこれはキャラ崩壊の域ですね。
いーちゃんも人識も出夢も潤さんもみんなみんな好きだけど、実のところイチ押しキャラは兎吊木だったりします。



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