少女の反逆 月子




※黒つっこです




煙草が吸いたいなぁと、青すぎる空を見上げていたら不意に思った。空は憎たらしいくらい綺麗で、雲一つありやしなかった。入道雲くらい出ていれば可愛いげがあるものを。どうにも思い通りにならない。
別段ニコチン中毒者なんて訳じゃないから、吸わなければならない、なんて思ったんじゃない。
ただ、なんとなく。面白そうだったし。それ以上の理由はない。

いけないこと?体に悪い?そんなことくらい分かってるわよ。でもね、いけないもの程気になってしまう。それってヒトが生まれたときからの運命って奴じゃないの?
あのアダムだって真っ赤に熟れた林檎の毒に抗えなかった。それと同じ。あんなちっぽけなものがどうしようもなく魅力的に見える。




ぷかり。
手の平でライターをもてあそぶ。
青い空、ましてや学校の屋上などという場所に相応しくない煙が上がる。

誰かに助けを求める狼煙にも似てる……。
なんて馬鹿馬鹿しい。一体私が誰に、何の為に助けを求めると言うの。そんな思考を一瞬で切り捨てる。

一口吸って口に広がるのは苦味だけで、美味しくもなんともない。私は思わず顔を歪めた。
本当にまずい。大人はこんなもの好んで吸っているのだから、やっぱり分からない。目には見えない分子レベルで肺を傷つけている感覚だ。さっきまで持っていた面白さも、今となっては萎んだ風船のようだった。
寄り掛かったフェンスがかしゃりと軽やかな音を立てる。十数m下には地面。

「私、こんなのを望んでたんじゃなかったのになぁ……」

どこから可笑しくなっちゃったんだろう。煙草を手にしたらもっと楽しくて、大人な感じ……だったのに。現実って奴は世知辛いらしい。
それから何口か吸って、煙草の味をこれでもかと言うくらい味わっってみたけれど、やっぱりまずいのは変わらない。だけど、不思議と辞めようとは思わなかった。何かに負けるような気がしたから。


「あーあ。やっぱり思うようにはいかないなぁ……」

こんなときに限って、幼なじみ達は近くにおらず、呟きだって誰も聞いてくれない。ついでに言うと心の叫びも。
浮かび上がり、そして消える煙草の煙を見ていたら、だけどなぜだか虚しくて悔しくて、辛くて涙が溢れて来た。溜め息と一緒に煙を吐き出す。
私はしょっぱ温い水をちろりと舌先で舐めた。


さてと。もう行かなくちゃ。
やりきれない思いをぶつけるかのように校庭に紅くて真っ赤に熟れた林檎に見えた煙草を投げ捨てた。







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