繋がり 土+平


繋がり 土方+平助

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なぁ、山南さん、と今この場にはいない彼に問う。
剣の腕だけでなく、論客としても優れていて、何かと細やかな気遣いが出来る。
しかし俺らの中では少し毛色が違った。
そんな、彼。


いつからだろうか。
俺達の道標が違ったのは。目指すもの変わったのは。守りたいものが変わったのは。
そして、あんたがあんな風に変わっちまったのは。


何度自分に問うても答えどころか答えの欠片さえも出て来ない。
土方は自嘲気味に笑みを浮かべた。




繋がり






最初、彼とは目指していたものが同じだった。それなのに、変わってしまった。

若変水を飲んでから。

あんたが変わったのは、ただ若変水のせいと言う訳では無いのだろうと思っている。
勿論若変水があんたの中の何かをほんの少しでも狂わせたのがそれだと言うのは否定しない。
彼には彼なりの守りたいものがあり、目指すものがあり、信じるものがあることは勿論分かっていた。

しかし彼は仮にも新選組に名を連ねるものであった。若変水ごときに自分であることを失わなせるほど弱いとは思っていない。
それに短き間ではあったが俺達と共にいた。
それは俺達の中の何かに共感し、己の時間を削ってここにいたと言うこ
とだ。少なくとも、俺はそうだ。
ある意味では俺よりも新選組のことを想っていたと思った。俺はご覧の通り合理主義者で新選組を存続させるためならどんなことも厭わないから穏健派の彼とは反発しあうことも多くあったが、認め、認められていたと思っていた。
行動が違っても、根っこのところのどこかで繋がっていたはずなのに。
残念ながら思い違いだったようだ。

特にショックだった訳ではないが、少し失望したのは事実だ。



土方はここで思考することを止め、顔を上げた。
見えるのは、いつもと何らかわりない自分の部屋。
散らばる書き損じの紙。

「土方さん、俺だけどー」

間延びした声が聞こえる。

「あぁ、平助か。呼んで悪かったな、入ってくれ」

土方さんどうしたの、俺呼ぶなんて珍しいじゃん、なんて言いながら平助は足どり軽く部屋に入ってくる。
それもえらく楽しそうに。

土方はこんなに楽しそうな平助を見るのは久方ぶりであった。理由はどうであれ、平助が――というよりも知り合いが――笑っているのはなんだか意味もなく少し嬉しくなる。
こんなに楽しく笑っているのはいつぶりだろうか。


一年程前、平助は伊東を迎えに行くために江戸まで行った。
それから帰ってきては浮かない顔をすることが多くなった。ずっと考え事をしているのだろう。
そして原田や新八、千鶴たちとともにいて笑っていても以前とは違い、淋しそうに笑うのだ。
その笑みは見ているものも同じように笑わせるといった種類のものではなく、どちらかと言えば見るものの悲しみを誘い胸を痛ませる種類のものだった。


その後は油小路で重傷を負い生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされ、生きることを選び、羅刹となった。
そう、彼と同じ羅刹に。


そんな中、今平助が浮かべている笑みは前者、他人を同じように笑わせるものであり土方は安堵した。
まだ、平助は彼とは違い笑えている。

「山南さんのことなんだけどな」
「山南さんね…」

何を聞かれるかあらかじめある程度分かっていたようで、あっさりと返事が返ってくる。眉を潜めるあたり、良くないのだろう。

ただ良くないのが状況か状態か。
前者であれば土方もなんとか出来ようものだが、後者であったならば正直お手上げだ。なにもすることが出来ない。

「なんか…俺から見ても張り詰めてる感じがする。ギリギリのところで踏み止まってるみたいだけど、凄く危うい」
「状態は芳しくない訳か」
「ん…
まぁそんな感じかな」

平助は苦笑した。
張り詰められた糸がいつ切れるのか。なんとか、切れずに持ちこたえて欲しい。土方はそう強く思った。
彼にとって糸が切れれば羅刹としての暴走で、すなわちそれは直接的な死に繋がるからだ。

「ところで平助、お前はどうなんだ」

これは山南のことは何かしら聞かれるであろうと予想していた平助であっても予期していなかったらしく、驚いた顔をした。が、すぐに土方に答える。

「まぁどうって言われてもこんな感じだし…。そこそこだと思うよ」

そう言いながらもやはり平助も土方から見れば無理をしているし、擦り切れそうであった。
ただ、救いはまだ笑える程幾分か余裕があるということ。
それに対して自分が出来ることはあまりにも少ない。

「…まぁあんまり無理すんなよ」
「ん、りょーかい。じゃ、俺行くな。土方さん」
「あぁ」

平助はぱたぱたと音をたてながらかけて行った。
かける言葉は気休めに過ぎない。泣く子も恐れる新選組の鬼副長だというのに。


変わってしまったものだ。
全てが全て思うようにいかない気がする。時代も、仲間も、考えも。
そう考えると、上手くいっていたとき――池田屋のときだろうか――が酷く昔のことのように感じられる。あのころも決して楽ではなく大変だったが、まだ未来が見えた。この状態が一番下と思ったからさらに下はなく、上しか無かった。だからはい上がることが出来た。
しかし今は違う。幕府は揺らぎ、これが一番下かも知れないが、まだ下がれるような気がしたからだ。
たった四年前なのに懐かしい。それと同時に淋しい。

ということはあの少女を拾ってから三年近くになるわけだ。そりゃ年もとるわけだ、と土方は一人で納得する。
少女は蛹のからを破るように娘へと変化しつつある。いつまで、隠し通せるだろうか。多分、近いうちに限界は来るだろう。
その時はどうするかな…と土方は呟く。

しかし、さしあたって考えるべきは少女のことではない。
彼の…山南さんのことだ。


山南さん、あんたの行く先はなんだ。
先の見えない闇なのか、それともあんたは闇の先の光でも見えていて、それを目指しているのか?

俺には分からない。どうすればいい。何をすればいい。
教えてくれよ、山南さん――


土方にとって山南の行動は分からないことだらけでどうすればいいか分からなくて。
胸には訳の分からない喪失感が虚しく宿った。諦めて溜め息をつきながら、土方はすっかり冷めてしまった茶を煽った。

「上手かねぇな…」

しみじみと呟いたが、部屋にはその言葉を聞くものは土方のほかに誰もなかった。














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千鶴が出てきませんよ。プロットの時点ではいたのに…。
千鶴ちゃんどこ行ったんでしょうか。


平助が楽しく笑えるようになったのは再び原田や新八、千鶴と絡むようになったからです。
羅刹になってすぐの頃は色々と悩んでいましたが、この時点である程度の踏ん切りは付けたんじゃないかなぁと。


土方と山南は表明的には反目してますけど、根本のところでは土方と繋がってると思います。だから土方は山南を信頼していたわけです。
なのにこうして新選組を思わない行動をされて困ったし、混乱してたんだと思います。

このとき土方の中で千鶴は新選組に自然にいる人間て、むしろいないことが不自然なくらいかな、と。
でも恋愛感情は全くもってなしです。

なお、最後のお茶は勿論千鶴です。きっとすぐお茶をいれに来るのです。




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