To one and onlyサンプル


 九楼家では年度末になったら、その年の写真を整理するのが常であった。写真を見ながら、この一年の間に何があったのかを思い出す。その年の写真を整理するつもりが、つい昔のアルバムにも手を出してしまう、なんてこともよくある話。このときもそうだった。
 昼頃から始めた作業も、気が付けば夕方になっていた。ふと見た空は橙と群青が混ざっていたが、この時期ともなればいささか冷える。暖かな空気が逃げないように、撫子は慌てて部屋のカーテンを閉めた
 整理し終えたアルバムと、未だ手を付けていないアルバムの量を見比べて思わず息を付く。まだまだ終わりが見えない。
 思えば随分と写真を撮ったものだ。昔は撮るのも撮られるものさほど好きではなかったのは、残っている写真の枚数で分かる。しかし、課題を通して好きだと思うようになったのだろうか。
 鷹斗と撮ったもの。理一郎が写ったもの。そして、課題メンバーが写ったもの。
『小学生』のラベルが貼ってあるアルバムが数冊あるが、ほとんどが課題メンバーと撮ったものだ。課題があったのは小学六年生の秋だから、期間にすれば僅か半年足らずなのに、この量。そして、映っている自分の表情。思い出をつくるのに期間など関係ないということだろう。
 一枚一枚こうしてまじまじと見て、このときはこうだった、あのときはああだった、と思いを馳せていれば、時間がかかるのも当然のことだった。

(省略)

 写真を見て、淡かった出来事を明確に形作る。しっかりと意識するようにすれば情景はもちろん、温度や感覚さえ思い出せるのは、それほど強く記憶の中に残っているからだろうか。いや、そうではなく、あった出来事の全てを覚えておきたいとあの頃確かに思っていたからだ。
 今振り返れば、随分と鮮やかな思い出だと思う。
 不意に、鷹斗が言っていた、『時を止めてしまいたいと思うほど楽しい時間――CLOCK ZERO』という言葉を思い出した。
「……懐かしいわね」
 そんなこともあった、と『小学生』のアルバムを閉じ、次のアルバム取ろうとすれば、写真が一枚落ちているのが目に入った。恐らく、先ほどのアルバムの中から何かのひょうしに一枚剥がれてしまったのだろう。戻さなければと思い、その写真を手にした。それは見たことのない写真だった。


本編に続く



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -