楓撫欲しいです欲しいです
「ばか! 何で有心会を出ていくんだよ!」 耳に馴染んだよく響く声が飛んでくる。お自分を呼ぶときはお嬢、と柔らかに名前を紡ぐから、こんなにも感情を乗せた声で呼ばれたことなどない。きっと、名前を呼ばれること自体が最後だ。 しょうがないなぁという声が好きだった。面倒を見てあげなきゃという雰囲気が好きだった。掛け値なしに怒ってくれるところが好きだった。そして何より、私を見る瞳の温度がどうしようもなく温かいから。こんなにも罪悪感を抱えてしまうのだろう。 出来ることなら、彼には見つかりたくなかった。しまったなぁ、と頭の片隅でぼんやり思った。 「こないで」 そう言えば、楓は慌てて脚を止めた。私の言葉なんて無視して、追ってきても良いのに本当に律儀な人だ。でも、その実直なところに、私は惹かれた。 「脱走するのかよ、お嬢!」 「違うわ」 「じゃあ何で!」 何も言わずに出ていこうとしたんだよ。見つけたのが俺じゃなきゃ、きっと酷い目に合う。 楓はそう言った。そんなこと言われなくたって、もうとっくに分かってる。本意では無いにしても、暫くは同じものを見て、同じものに触れてきたのだから。 「何で追ってきたの」 「なんでって……そりゃ長はお前を人質として扱ってるかも知れないけど! それだってそこまで悪いようにはしないし……」 「私がここを出ていくのはそういう理由じゃないわ」 楓は、自分の中で理由を探しているみたいだった。でもきっと楓には、その理由を当てられない。 「政府が…もう手段を選ばないって言ってきたんでしょう?私聞いてしまったわ。もうきっと政府は有心会の存在を見逃してくれない。多分、本気でつぶしにかかるわ」 「……」 楓は確かに学はないかもしれないけれど。だけど愚かじゃない。 「そうしたらきっと有心会は……無くなってしまう。有心会がどんなに強くても、これはきっと変えられない事実よ。だって、政府がこの世界を作ったから」 楓は言い返さない。 「私はね、楓。なんだかんだで嫌いじゃなかったのよ。ここ。確かにみんな荒っぽいし、怖かったこともいっぱいあったけど。それでも、この世界での居場所は確かにここだったから。感謝してるかどうかはまた別の話だけど」 「政府に潰されるのを見るくらいなら、私はむこうに行くわ。みんなの傷付く姿が見たくないのよ」 「でも! そんなことをすればきっと……長は黙って居ないだろうし!」 分かってる。 「お嬢がそんなことしたら、きっと殿先生が悲しむ」 「そうね」 それも分かってる。だけど私が欲しいのはそれじゃないの。その言葉じゃないの。 (楓は終夜が悲しむから私を止めてくれるのね。楓が悲しむからではなくて) それが、少しだけ、苦しい。
っていう楓撫が欲しいね・・・
0714のCZ絵チャで、素敵絵を書いて下さってる横でぽちぽちしたもの 1時間クオリティー
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