思うようにいかないものだ 高黒


 彼に対する明確な感情の初めは敵愾心で。まぁ、そんなにいい感情じゃないだろう。けど、誰だって自分の出てるチームを応援するのは当然だろう?
 だけど、自分のチームを応援するなんて当たり前なこととは別の次元で彼の存在そのものが引っ掛かった。
 そう、感情の揺れではなく引っ掛かったのだ。魚を背から撫でて、鱗を逆立てるように。ざらりとした感触が手に残る。
 学年が同じだとか、送られたパスを上手く捌いてチームのためになるような動きをするとか、他人がいなければ真価を発揮できないとか。そうは見えないけど、お互い案外色んなものを観察してるとか。そんな感じでまぁ色々と。
 探せば探すほど不思議なくらいあいつと俺との共通点は見付かった。だからこその同族嫌悪、なんだろうけれど。

 引っ掛かりの後は純粋な興味になった。真ちゃんが他人を認めるって、そりゃ凄いことだ。基本が人事を尽くして勝利に貢献しているのだから唯我独尊だし、下手すりゃ天上天下とか思ってるんじゃないかとすら感じる。そんな真ちゃんが認めるってどんな奴だよっていうところが次のとっかかり。
 そしてそれがいつしか好奇心に昇華され、今彼に抱く気持ちに名前は無い。



「一つ、質問をして良いですか、高尾君」
 ずずずとバニラシェイクを啜る黒子は俺に問いかけた。聞けば、いつもは火神とこのファーストフード店でのんべんだらりとしているらしいが、今日に限って火神はいないらしい。ならば好都合と、俺もチョコシェイクを手に黒子の座る席に座った。
 何でこんなところにいるんですか、なんて黒子は聞かないから俺も答えない。
「何?」
「高尾君の目に、世界はどんな風に見えているんですか。ボクはどんな風に写ってるんですか」
 はて一体これはどういう意味で聞いているんだろう。
「どうって…さあ。別に普通だけど」
 こんなぼーっとしていて、なんの武器もなさそうなのに真ちゃんと同じユニフォームをきて、チームを勝利に導くなんて、嘘みたいだ。こいつの影が薄いからとか、俺が鷹の目を持っているからとか、そんな理由じゃない。俺がこいつを特別だと感じてしまうのは。
 きっと、俺が鷹の目を持っていなくても、こいつには気がついて、見つけて上げることが出来るんじゃないかと、明確な理由はないのにそう思うのだ。
「それでも知りたいんです」
「……お前の言ってることは百足にどうやって歩いてるんだって聞くのと同じだな。あぁ、真ちゃんに、どうやってシュート決めてんのかって聞くのも同義だけど」
 緑間君なら、別になにもしていない。強いて言うなら人事を尽くしているだけだ、って言いそうですけど、と真ちゃんの言いそうなことを予想してる辺り、やっぱこいつもちゃんと真ちゃんのことが見えている。きっと俺もそう言うから。
 それに俺らが血のにじむような努力をしてやっとできるようなことも、どうあがいたって出来ないことも、呼吸するように成し遂げる奴らもいる。真ちゃんに限らずとも、お前の周りにはそういうような奴らがいっぱいいるんだろう? キセキとか、多分火神も。
「寧ろお前はどう見えてると思ってる訳?」
「軽いのかなって。透明で、明るくて。色んなものが見えてる」
 瞳を閉じている黒子は、想像しているのだ。俺の見える世界を、視界を。
「ざんねーん。そりゃ俺の武器だけど、お前が何かを期待するほどこの目は別に特別じゃないさ。まぁ、それなりに視力は良いと思うけど」
「視力、そんなにいいんですか」
「恋しても盲目にならない程度、」
 眉を潜めた彼を見て、この手の冗談は嫌いだったかと心のメモ帳に書き加える。あながち嘘でもないのに。
「って言ったらどうする?」
「別にどうもしません」
「なんだ、つれないなー。じゃあ逆に、今度は俺から」
「良いとは言ってません」
「けど、駄目とも言ってなかった」
 まぁそうですけど、歯切れ悪く答える。
「人に見つけてもらえないって、お前、どんな気分なの」
 普段(と言ってもそんなに黒子のことを知ってる訳じゃないけど)そんなに表情を崩さない黒子にしては珍しく一瞬眉を顰める。強い意思を湛えた水色が淀んだ。
「自由って言ったら自由ですけど」
 そう言って、少し考えるような素振りをした。
「上手く言えないですけど、寂しい、って思うときもないこともないです」
「そうか」
 俺だったら、お前を見つけ出してやれる。
 どんなに目立たなくても、人ごみの中でも、たとえ鷹の目がなくても俺なら、一瞬で。
 だからさ、――。

 なんて、言えるはずもない。
 すすったチョコシェイクは思っていたよりもずっと甘ったるくて、べったりと喉に張り付いた。
「……あめーな。良いよ、残りやるよ」
「……ボクはバニラが良いです」
「今持ってんのはこれしかないから我慢しろよ」
 汗をかいたチョコシェイクのカップを黒子に押し付けるように手渡した。迷惑そうな顔をしたけれど、本当のところはどうなんだろう。
 鷹の目、なんて言うけれど、正確な本心一つ分かりやしない。
 ああ、難儀なこった。






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