深海魚の呼吸 黒子



昔から人が嫌いだった。自分じゃない存在も嫌だったし、自分自身でさえも。

自分は多分所謂コミュニティ障害に近いのだと思う。できることならなるべく人と関わりたくない。言葉数も多い方ではないからか、一人で生きられるのならばそうしたいと思っている。
そう願うのが自分自身で全てのことができるからではなくて、誰かの手を煩わせてしまったときに、ボクにかまけて失ってしまったその人のもの――例えば時間――と同じものを返すことが出来ないと思うからだ。
その補償ができないから一人で生きたい、なんて限りなく零に近い負の感情だ。
ボクははいっそ消えてしまった方がいい人間なのだろうか。

けれど、そこまで日常に不満を抱いている訳でもなく、消えてしまった方がいいのかもしれないと思ったのも受動性で、ようするにボクはすべてにおいて他の人と噛み合わない歯車なのだ。
もしかしたら、本来噛み合わせるために必要な突起の部分はないのかも知れない。だからボクの歯車は、誰とも噛み合わない。


ヒトという生き物は不思議で。というよりも、不思議なのはボク自身だ。
侵入してくる異物を全力で排除するくせに、それを遠ざけて再び侵入出来ないくらいに距離をとってからその存在の嫌なところを探して、排除するための最もな理由を与えている。
きっと害をなす人物になるだろう、とか、合わない人だ、とか。
ありもしないものを探している自覚は充分ある。ほんとは自分で持っているのに、ただ一心不乱に探しているふりをしている。探すという行為に満足して、真実には目を瞑っているだけなのだ。
こうして一生懸命自分以外を排除して、残ったのは自分だけ。それなのに心のどこかでは誰かと繋がることを望んでいる自身もいる。中学生らしく放課後まで学校に残ってみたり、誰かと馬鹿なことをして下らないことで大笑いしたり、青春らしいことをしてみたい。
一人になりたいのに誰かと繋がりたいなんて矛盾してるのに、どちらの気持ちも抱えてる。
自分のことなのに、時々自分が分からなくなる。ボクというのはどんな存在なんだろう、と。


しかし人と関わりたくないという望みすらままならないのが、ボクがおかれている、おいている環境だった。
一人になりたいくせに部活に入って、なおかつバスケットボール部を選んだのは、きっとボクのボクに対する抵抗だ。諦めながらもどこか期待してる、そんな自分自身への謀叛だ。

カゲがうすかったり、人の印象に残らないのは元々の性質だから問題がないとしても、それを更に薄めてミスディレクションとして自分の武器の一つにまでなった理由の一つは、ボクが人と関わりたくないと常々思っていたからだろう。
並外れた観察眼なんて言うけれど、それは結局、自分がどう思われているのか分からなくて、怖いから常に誰かを観察し続けた末に得たものだった。
いかに他人の視線のラインに触れられずにいられるか、そればかりを考えている。それが今や自らの武器であるだけでなく、アイデンティティだなんて皮肉なことだ。


どうしていれば、他に人に見られないですむだろう。他人の鱗を逆立てないように、ひっそりと空気に溶けることが出来るだろう。
お腹の下の方で深く深く息をする。音をたてずに自分を殺して。
まるで深海魚のように。ボクは今日も呼吸するように、願うのだ。






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