ずっと俺がついてるから 鷹撫
※激しい捏造注意
「おはよう、撫子」 毎日の挨拶だった。雨の日も、晴れの日も、曇りの日も、何があったって一度だって欠かしたことのない一日の始まりの挨拶。何時からか、あたり前になったこの言葉。 撫子の目が覚めて、一番に目にする人で、一番に言葉を交わす人が、きっと俺。その事実に俺はどうしようもなく幸せな気分になるのだ。 一度この事をレインと円に言ったら、レインでさえ呆れたような表情していたけれど、そんなのはまぁいつものことだ。 「撫子、よく眠れた?」 「ええ」 随分と前にここに残ると言い、俺を拒絶する強い意思を持った撫子はここにいなかった。 今でも鮮明に思い出せる。有心会の襲撃を受けて、一発の銃弾が撫子の貫く。撫子が重力に従って倒れるのは、ビデオをコマ送りするようだった。 彼女の身体から零れ出る赤は、どうしてか美しくすら見えた。きっと、俺の身体には流れていないだろうなと思考しない頭で何となくそう思った。 まるで現実ではないみたいで。撫子が傷付くのを目の前で見てしまったという点においては嘘であれば良かったすら思う。 また俺は世界を壊さなくちゃ、いけないのかな?なんて覚めた頭で考えたけれど撫子は意識を失う前に俺にもうやめて、と、狂わないで、と言っていたね。 俺は、どうすれば――。
「キング。お知らせしたいことがあります」 「一命はとり止めましたが、まだ予断を許さない状況です」 一命をとりとめて安堵する俺の横で医師は何とも言えぬ表情で俺に告げた。 撫子の命さえあれば、生きていてさえくれればそれでもう良かった。振り出しに戻るだけだ。また、きっと何とかできる、とそう思ったのだ。
その後、撫子は無事に目を覚ます。今までの記憶を失った状態で。 「撫子、今日は何がしたい?」 「あなたといられれば何でもいいわ」 「ありがとう。じゃあ、外には出られないから、今日は俺と一緒にいよう」 「うん」 今までの記憶を失い、まっさらな状態だった。自分の名前も、俺の名前も、ここがどこだとか、どうしてここにいるのか。――どうして世界は壊れているのかも、撫子は覚えていなかった。 でも俺にとってはそんなことはどうだって良かった。些細なことだった。撫子が生きて、俺の隣にいてくれるそれだけでいい。それだけが、俺の望み。 「そうだ、撫子。おはようのキスをして?」 「うん」 直後、軽いリップ音。多分幸せそうな俺と、俺を見て嬉しそうにする撫子がいる。 こうあることが、こうすることが当然であるかのような反応だった。俺の言葉に何の疑問も持たないで、言う通りにしてくれる。 俺の吹き込んだことは、俺と撫子は恋人関係にあったこと。ただそれだけ。それだけなのに。 強い意思を持たないし、俺のすることに拒絶もしない。元の撫子とは少し違うけれど、これが俺の掴みとった幸せの形だった。 どんなに歪んでいても構わない。ここに、撫子がいてくれるのであれば。
title by確かに恋だった様
1200607
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