東京インモラル イッキ主



 普段露出をしないような子が自分の前でだから肌を見せているのも良いけれど、黒タイツからうっすら透けて見えるマニキュアもなかなか捨て難いと思う。
 この薄い隔たりはどこかに引っ掛ければ壊れてしまう。別に引っ掛けなくてもいい。僕がちょっと爪を立てるだけで、それだけでも壊れるだろう。
 それは、なんて、魅惑的な。
 ぶち壊してしまいたいと思う気持ちと、そんなことをしたら彼女そしてに嫌われてしまうだろうという思いがせめぎあっているけれど。きっと僕はこの絶対的なる領域を侵すことはできないだろう。
「ねぇ、マイってさ。普段からペディキュアしてるの?」
「あ、分かります……?」
「うん、透けて見えてる」
 無造作に投げ出された華奢な脚から見える のは、薄手の黒タイツ。そこから透けるのは、ピンクに彩られた形の良い爪。僕自身、指は女性的とまでは言わないけれど、男としてはあまりごつごつしてない。指に付随する爪もそうだ。
 だけど、彼女は。
 指の細さも何より、爪の形一つとっても僕とは違う。そもそも爪を装飾しようと思う発想自体が僕にはないのだ。
 そして何より僕を驚かせたのは、彼女の上に居座るその色はただのピンクではなく、激しく自己主張をするショッキングピンクであるということ。
 ただ、ペディキュアをしているというだけでもなかなか視覚にクるものがあるというのに、その色がショッキングピンクであるということだけで、厭らしさは二割増し。まるで、見てはいけないものを見てしまったかのような――。
 それをしているのが普段は大人しく見えるマイなのだから、尚更。なんてギャップなのだろう。一見大人しく見えるのに、内には攻撃性を秘めているかのようで。
 凄く、興奮する。
 なんて考えてる僕の頭がいけないのかも知れないけれど、こればっかりは仕方ないだろう?
「凄く綺麗だけど……なんだかヤラシイね」
「や、やらしい……ですか?」
「うん」
 だから何だか変な気分になっちゃいそうで、なんて。ただの笑いの中に憂いを見つけてしまったときにも感じた。マイも女の子じゃなくて女、なんだね。
 攻撃性を孕んだ彩度の高さは、僕の網膜をじりじりと焦がしていっている。
 こういう、直接的でないものの方が、こうして想像でどうにでもなる分厭らしいのかもしれない。
「ねぇ、マイ。ちょっと脚出して」
「イッキさん……? はい」
 今から僕が何をするのか知らないまま、マイは放られた脚をこちらに向ける。
 マイはちょっと僕を信用しすぎかも知れないね。
 僕はおもむろに手袋を外して、硝子の置物を扱うようにその脚に触れる。壊れないように、壊さないように。その薄い隔たりも勢い余って壊してしまわないように。
 指の腹で慈しむように触れ、時折力を込めてみたりなんかもして。たまに硬い爪がやわい皮膚を擦る。
「い、イッキさん……!」
 女の人の脚にかしずいて愛でて触れるだけなんて、なんだかしちゃいけないことをしてるみたいで。なんて背徳感だ。それを意識すればさらに自分がどういうことをしているのかが浮き彫りになって、マイを触れる指にもどうしようもない想いがこもる。
 声をかけられてふとマイの顔を見れば真っ赤で。こころなしか、何だか涙目のような気もする。どうしたの?と聞いても真っ直ぐにこちらを見ないものだから、両手で顔を挟み込んで。
「なに?」
 僕の指先も熱を持っているけれど、マイの顔も同じくらい熱を持っていて。
 もう逃げ場はないんだから諦めてこっちを見て、思ってることを言っちゃいなよ。
「イッキさんの触り方がなんだか……。ずっとずっといやらしいです……!!」
 その言葉は君が言うのかい?
 温度を半分こしたみたいなマイも僕と同じくらい興奮してくれてるってことでいいのかな?だとしたら、とても嬉しいけどね。
 僕はマイの柔肌を指先で撫でた。





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title by:水葬様

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