スピカが告げる安息日 イッキ主
三ヶ月、といえばドラマの一クール。 ある子は自分の生き方を変える程の大恋愛をしたりなんかをして、ある子はいきなり超能力なんかに目覚めてしまっていろんなものを変えるのだろうか。それともヒーローになって悪の組織から世界を救ってみたり? まぁ何にせよ、そう短い時間ではないだろう。 三ヶ月ごとに、女の子を取っ替え引っ替えしていた僕はその度に生まれ変わる。だとすれば何度世界を救い、何度人生を変えたのだろう。 だけど、そんなに甘くないよね。僕は変わらない。世界も変わらない。何も変わってなんかしない。
三ヶ月のルールは無くなったのに、噂は無くならない。もっとも無くなったとしても割り込んで来る子もいるから結果は変わらないだろうけれど。 僕に想いを伝えてくれる女の子は沢山いる。だけど、僕はその思いを受け取れない。いっそのこと受け取ってしまえば楽になるだろうか。同時に僕が僕であると言えなくなるけれど。
一人一つ。想いをぶつけられる度に枷が増える。一個一個は軽いのに気が付けば身動き出来ないほど重くなっていた。 あぁ、辛いな。 こんな目さえ無ければ、こんな辛い思いをすることも無かっただろうに。 大丈夫ですか?とマイが僕を伺った。 ごめん、ほんとはそんなに大丈夫じゃない。昨日も女の子に告白されて。断ったら人の目を気にせず大声を上げて泣いちゃった。 思いを受け取るとか受け取らないとかそういう問題じゃなくて、思いをぶつけられること自体が重い。彼女達はマイとは違って魔法で作られた想いだからさ、正直気持ち悪いんだ。彼女達をそうさせてるのは僕自身なんだけどね。 「うん、平気」 「……そうですか」 マイがいるのに、他の女の子の話は駄目でしょ。 息苦しいね。マイが隣にいるのにこうして別の女の子のことを考えてるからちっとも休まらないんだ。 水を含んだシャツを纏うようで、重い。 「イッキさん、」 突如、視界が何かによって覆われる。 「笑えてないですよ」 このあったかくて柔らかい感触を知ってる。何度も触れて繋いで絡めたマイの手。 それが僕の視界を塞ぐ。存在を確かめるように触れる掌は瞳を隠してくれているみたいで。もう何も見なくても良いよって言ってくれてるみたいで。 僕は何度この手に救われたのだろうか。 「良いんですよ、何を言っても」 「……ねぇ、君は僕の心が読めるの?」 「読めたら良いんですけどね。生憎そうはいかないんですよ。だから言って下さい」 後ろでマイが苦笑したみたいで、肩が揺れたような気がした。 マイのあったかい掌に包まれて僕は目を閉じる。
title by水葬
120325
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