AMN/ベッドの上でだけ、告げることのできる想い イッキ主



 やっぱり整っている顔なんだなぁ、と改めて思った。
 差し込む光と隣にある体温が暖かい。一つ目はともかくとして、二つ目の暖かさの理由にはやっと慣れた。始めはその暖かさと存在に驚いて悲鳴を上げてしまったけれど……彼は結局言葉通り私に何かをしてくることは無かった。
 今となってはそれが心地よくて、朝起きたときにこの温もりを一番に求めてしまっていた。
「ふふっ……。あったかいね」
 彼は背が高い。対して自分は女子としては決して低くはないけれど、彼を見ると大きいなぁと感じる。肩の辺りに自分の頭がくるのだ。
 だからこんなに近くでこの顔を見るのは座っているときだったり――こんな風にベッドの上でだったりと限られているのだ。
 もっともベッドの上だからといっても、まじまじと見る機会はそう頻繁にあるのではないけれど。
 綺麗な頬をつついて起こしてみたくなることがあるけれど、それのせいで起こして睡眠を妨げてしまうかも、と考えれば不容易なことは出来なかった。
「目を瞑ると意外と、幼い顔立ちしてるんだもんね」
 始めて知ったときはちょっと意外だったな、とマイは思い出す。
 いつもはかっちりした服を着ているし、サングラスをしていることも多いから自然と格好よく見えるけれど、この人の本質はきっともっと柔らかくてあったかい。
 そんなことも、こうしてベッドの上で顔をまじまじと見たから知ったことだ。
 きっと本人さえも気づいていなくて自分意外誰も知らないこの人の、秘密。
 他の人からみたら些細なことなのかも知れないけれど、自分だけが、と思うと嬉しい。
 体質のことを抜きにしても、この人に心酔しているファンクラブの人の気持ちも分からなくもない。だって確かに惹かれるから。
「幼い、っていうか可愛いっていうか」
 瞳を閉じているだけで、人間の印象はここまで変わるのだ。
 本人が起きていたら言えないことも、寝ているのであれば言える。
 これだから本人には言葉で示してくれ、なんて言われるのだがそうは言っても恥ずかしい。面と向かって本人には言える訳がない。
 柔らかな日差しを浴びながら少しだけ寝顔を見る。それから起きる。これが、マイの朝の日課だった。
「そろそろご飯作らなきゃ……」
 このままずっと見ていたいな、なんて少しだけ名残惜しい気もする。けれどもう少しで時を告げようとしている時計を止めて上体を起こす。
 うん、いつもよりちょっとだけ早い。
 この穏やかな寝顔と、朝食を作って「おいしいよ」と言われるときの笑顔。天秤にかけて傾いたのは笑顔だった。
 ベッドから降りようとしたマイの脚に何かが引っかかる。おや、と思う前にちょっと低めの、それでいてよく知る体温が伝わってきた。
「え……? イッキさん……?」
 そこにはふわりと微笑むイッキがいた。彼が掴むのはマイの脚。
「おはよう」
「おは、ようございます……?」
「朝から可愛いことしてくれるんだね」
「え、」
 ちょっと待って下さいという言葉が喉で引っ掛かる。
「途中からどんな顔して言ってるのかなって思ったから目、開けてくて仕方なかったんだよ? でもまぁ僕としては可愛いって言うのは気に入らないかな」
 いつもなら寝ぼけてるはずなのにどうしてだろうという考えがふと湧いてくる。
 反射で挨拶を返したけれど、なんで人の脚を掴んでるんだろう。そんな疑問もすぐに解消した。それからややあってから彼が何を言ったのか頭でもう一度咀嚼。
 疑問は羞恥に変化する。
 まさか聞いてたなんて。もしあの時この人が聞いてるかも知れない、なんて分かってたら言う訳が無かったのに。
「そうやって顔真っ赤にするところも可愛いよね。マイ知ってる? 可愛いって、君みたいなことを言うときに使う言葉なんだよ。間違っても僕みたいな男に使うような言葉じゃないよ」
 でしょ?なんて悪気なく言うものだから狡い。さっきまでの可愛いなんて思う欠片もない。
「それからおはようのキスもしてくれないの? ちょっと期待してたんだけど」
「……はい?」
「だからおはようのキスだってば」
 ほら、と顔を近づけてくる。本人は私がしやすいように、と思って寄せたのだろうけれどそういうことじゃない。
「や、やです……」
「なんで」
「恥ずかしいから……」
「同じベッドで寝てるのに?」
「……イッキさんの意地悪」
「意地悪……? 何のこと?」
 こういうところでわざとらしく笑ってみせるのが意地悪って言うんですよ。
「はいはい、ごめんね。そんな膨れた顔しないの。僕が悪かったよ」
「……分かってくれればそれで良いです」
「まぁ、それはそれで可愛いけど。そうだね、女の子を虐めてもいいのはベッドの上だけって相場が決まってるからね。あれ、でもそれじゃあ今はベッドの上だから問題ないのかな」
「イッキさんなんてもう知りません!そんなこと言ってるとご飯もつくりませんからね!」
 恥ずかしさを隠すように強引にイッキさんが掴んでいる脚を動かす。
 はいはいごめん、と笑ってイッキさんは手を離し、今だ温もりがあるであろうベッドを私に続いて抜け出た。
 この温もりではなく、私を優先してくれるのか。そう思えば少し嬉しい。
 さっきの仕返しに、朝出すのはいつもより少し苦いコーヒーを出そうと決めた。それくらいなら、許されるでしょ?
 こうしてひだまりのような私の一日が始まるのだ。







title by: 確かに恋だった



120310
ありきたりかもですが、こんな風に日常に溢れてる幸せを拾って欲しいカップル



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