艶っぽい雰囲気だそうとして失敗した水神@華鬼
肩を押されてその力を受け止めずに流す。私はドサリとベッドに倒れ込んだ。 ギシリと軋むベッドの音がどこか人事のように感じられた。 私を押した本人、水羽君は自分は何をしたんだろうという顔をしている。
「神無」
いつもよりも幾分か声が低くて、何かを切実に求める声だと思った。 それと同時に水羽君の瞳が徐々に輝きを持ち始める。 穏やかなブラウンから、ギラギラとしたゴールドに――。
「み、水羽君……?」
いつものように優しそうな笑みを浮かべる水羽君はいない。目の前にいるのは余裕がなさそうな一人の鬼。 鬼は神経が昂ると瞳の色が金色になる、と聞いたのはもう随分と前のことのように感じる。 ここに来た時に、「これからあなたをゆっくりと育てればいいんですよ」と言われて、あのときは何のことを言っているのか分からなかったけれど、今なら分かる。 あの時の私は生きながらにして死んでいた。心が壊れそうだったのだ。
だけど今は違う。私は、心は生きている。 それも、きっと水羽君を始めとした三翼の人たちがゆっくりと、その名の通り大きな翼で護り、愛を育んでくれたからだろう。
眼前にある鮮やかなゴールドを、私は何度も見てきた。選定委員を撃退するときもそうだった。 水羽君のゴールドは、私を救う色なのだ。 だから、怖くない。
「神無、僕凄く苦しいんだ、」
そう言う水羽君は困ったような顔をしていた。どんなに酷い怪我をしても、そういうことは言わなかったのだから、きっと凄く辛いんだろう。 私の上に覆いかぶさって、服に手をかける。 混乱しているしている間に、シーツに私の手を縫い止めた。
「水羽君……?」 「内側から何かが僕を壊すように攻撃してきて……ちょっとどうしていいか分からないや」
ほんと、どうしようと言う水羽君は、私を見ていなかった。 まるで、私の声が、きちんと水羽君に届いていない、ような。 そんなことを考えている私をお構いなしに、水羽君は肌に触れる。
「っ!」
水羽君は水分をたっぷりと含んだ舌でペろりと首筋を舐めて、耳朶を食む。 くちゅくちゅという粘着質な音が耳元から響いてきて、ぞわりと全身が粟立った。
「ひっ!……あっ、」 「ふふっ、可愛い」
突然のことに声が漏れる。まるで、私の声じゃないみたいで恥ずかしい。 水羽君は、普段から私のこと可愛いと言う人だけど、今のは普段のとは何かが違う。
「ねぇ神無。続きシても、良い?」
水羽君はいつもとは違う大人の色気を纏う。 流石の私でも、これがどういうことで、どういう展開になるのかは分かる。 最初で最後は、水羽君が良い。水羽君になら、何をされてもいい。
そう思えば、全身がガチガチになるほど入っていた力もすっと抜ける。 私はすっと目を閉じて水羽君に身を任せた。
*
気が付けば、水羽君の瞳はブラウンに戻っていた。そこに浮かぶのは焦りと戸惑い。
「ご、ごめんね、神無」
ふっと我に帰り、自分で付けた胸元の傷を見ながら言う。 もしかしたら、さっきよりも苦しいのかも知れない。
「君を傷つけてしまう僕じゃ、きっと幸せに出来ない。だから、距離をとろう?」
罪悪感でいっぱいなのだろうと思う。口元ばっかり見て、目を見ない。 前は何も言わずに私と距離をとったけれど、今回はきちんと言ってくれる。 だけど。私はそんな言葉を望んでるんじゃない。
「水羽君。私を、私の目を見てもう一回同じことを言ってください。 ……言えますか?」
それでも私の目を見てくれないから、両手でそっと水羽君の頬に触れて視線をこちらにずらした。 ゴールドも綺麗だけど、私はやっぱりありのままの方が好き。
「っつ……!言える訳が、ないよ……。だって僕は君の傍にいたいから。 でも、それと同時に君が傷つくのを見ていられない。ごめん、神無」 「私は、水羽君と一緒にいられて幸せです!私の幸せは私が決めます。 水羽君はもっと自分のことを考えて下さい! だから、私から離れていかないで……!!」
最後は嗚咽混じりであまり言葉にならなかった。 それでも水羽君は今すぐ離れて行ってしまいそうだったから、どこにも行かせてなるものかと首の後ろに手を回して抱きしめた。
「水羽君がいれば……後は何もいらないから。だから……どこかに行ったり、しないで……!」 「……」 「水羽、君……!」 「……こんな僕で、良いの?」 「私は水羽君が良いんです!「でいい」なんてそんなこと言わないで下さい……!」
感情の爆発と一緒に涙腺まで壊れてしまったのか、涙が止まらない。 背中を伝う水の存在を感じて、水羽君も泣いているのだと私は理解した。
ここで力尽きました/(^o^)\ 色香に当てられた、という設定で一つお願いします 艶(っぽい)文がとても恥ずかしいのにたまーに書きたくなる病
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