華鬼/青藤の涙 光神



何となく、体調が悪い気がしていたのだ。けれど私にとって、体調が良い時はあまり存在しない。勿論、鬼ケ里に来て光晴先輩達と出会ってからは格段に生活状況は良くなったけれど。だた何となく、いつもよりは身体が重いような気がする、それだけのことだった。

「光晴、先輩」

窓辺で暖かな光を享受しながら、幸せそうにしている愛しい人に声をかけた。彼の腕の中には私と彼の愛が、そしてその結果がある。
太陽のようにカラリと笑う光晴先輩だけれども、時折それは変わる。眉尻を下げて、青藤色――瞳の色――が、柔らかく蕩けるようになるのだ。それは、私を見る時と同じ目で、それを私たちの子どもにも向けている。きっと、私も光晴先輩と我が子を見る目は似たような感じなのだろう。
それが、堪らなく幸せだ。こんなに幸せになることが出来るなんて、数年前の自分は思いもしなかった。というより、今もこれはもしかしたら夢なのかもしれない、と思える程幸せだ。暖かいお湯に浸かって、身も心も解れていくような気持ちになる。それもこれも、光晴先輩がいるから。
私の幸せは、全て光晴先輩によるものなのだと思う。

「なんやー?」

振り返った先輩は、赤ん坊を見ている時と同じような蕩ける目。胸の奥が、暖かい。

「ここあったかいから神無も来いやー」
「あ、はい」

ぱたぱたとスリッパが音を立てる。私は光晴先輩の正面に立って、先輩から赤ちゃんを預かって抱いた。腕にある重みが不思議と心地良い。
このままだとあっという間に私が抱えられないくらい大きく、そして重くなっていくんだろう。それは嬉しいようでいて、少しだけ寂しい。

「ほんとだ、ここあったかいですね」
「せやろ?神無がここに来てからもっとあったかくなりよった気がするわ。
って神無、この前から思っとったけど最近厚着やない?そないに寒がりやったやろうか?」
「ちょっと前から何だか寒いような気がして……」
「風邪か!?なら病院いかなあかんやん!俺車出してくるからちょっと待っとれ!」

傍にあった上着を羽織って慌てて車を出しに行こうとする先輩を止めた。

「せ、先輩、病院にいかなくても大丈夫ですから……!」
「せやかて風邪は引き始めが肝心なんや」
「で、でももう暫く前からこうですし……!本当に大丈夫ですから!」

強くい言えば先輩はしぶしぶ、といった様子で頷いた。

「ほんまにちょっとでも体調悪くなったら言うてや。けどなんでそないに体調優れないんやろか……?」

ふむ、と光晴先輩が考えこんで視線を落とす。丁度、お腹の辺り。
次に私を見た瞬間ぎょっとした顔をしていた。そしてその後すぐに、泣きそうになる。
私は先輩のこの反応を知っている。これって。
もしや、と思いつつも先輩に聞く。

「先輩……?」

どうしたんですか?と聞く間もなく、先輩は私の腕の中にいる赤ちゃんごときゅっと抱きしめた。力強いのに痛くない絶妙な力加減で。

「おおきに。ほんま、おおきに!」
「せんぱい?」
「俺は神無から幸せ、貰ってばっかりやな。本来俺は神無を幸せにしてあげないといけないのにな。ほんまにお返し出来とる気がせんのや」

ありがとう、ありがとうと言って青藤色が涙する。泣いているのに、笑う先輩の頭をいつも私にしてくれているように、私も背伸びをして撫でた。
先輩は気持ち良さそうに目を細めた。

「もしかして、私、」
「せや。神無は俺を幸せにする天才なんやろか?れいちゃんに無理だって言われとったのに、一回ならずも二回も!俺は幸せ者や」

このお腹に再び命が宿っているとは。驚きもあるけれど、喜びの方が大きかった。
私は一人だった。それが先輩と出会って二人になり、少し前に三人になった。それがとうとう四人になる。
早く、会いたいね。元気に生まれてくるんだよ。お母さんもお父さんも待ってるからね。そんなことを思いながら新しい命があるそこを優しく撫でた。











12.0107

関西弁の難しさといったら……
光晴はゴールデンレトリーバーなイメージ



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