しあわせ色 真珠
「先輩の瞳って凄く綺麗ですよねー」
自分より、ほんの数cm低いところにある瞳を見つめて珠紀は言った。
「なっ、おま何で俺様を覗き込んでるんだよ」 「不可抗力です。というか先輩が小さいのがいけないんです。悔しかったら大きくなって下さい」
しょっぱい顔をするあたり、身長に関しては自覚があるのだろう。
「お前が女子にしちゃデカいだけだろ!てかなれたらもうとっくに大きくなってる!!」 「私平均くらいですよー。まぁ平均よりはちょっと高いかも知れないですけど。ってそんなことよりも」
目の前で喚く真弘を鮮やかに無視し、珠紀は続けた。
「やー先輩の瞳って綺麗な色してるじゃないですか。今改めて思いまして」 「そうか?これのせいで小さかった頃は結構損してたぜ?自分達と違うからーって虐められたりとか無視されたりとか」 「……」
自分の瞳を指差しながらなんてことないように言うものだから、驚きを隠せなかった。 こんなにも綺麗な瞳だというのに、それを理由に酷いことをする人もいるのだと珠紀は愕然とした。珠紀の中には、まるっきりそういったような発想すらなかったものだから。
「まぁでもそんな奴ら、俺様がぼこぼこにしてやったけどな!」
珠紀の強張った顔を見て、真弘も自分がどんなことを口走ったのか理解して、申し訳なさそうに肩を竦めた。
「あー……すまなかった、な。でも、お前が気にする必要はないから。もう過去のこと、だし」
な?と、まるで親が聞き分けのない子供を説得させる時のように眉尻を下げて同意を求めた。それから一拍遅れて珠紀の頭の上に真弘の手の感触。
「それでも、先輩が辛い思いをしてるのはやだなって。そう思うんです。 私たちの先祖の玉依姫と八咫烏があんな約束をしなければきっと先輩が守護者として生まれる必要がなかったから辛い思いをすることもなくて……。でもそうじゃなかったら私と先輩が出会うこともなかったんだよなぁって」 「……お前が俺様のことをどう思うか分かんねーけど、俺様はこういう風に生まれたことを後悔してない。お前と出会えて本当に良かったと思ってる」 「はい……」
髪をぐしゃぐしゃとするのは荒いくせに、触れる手は優しいだなんて反則だ、と珠紀は思う。その体温に氷が溶けるようにじわりと水が溢れてきて、涙が出そうになるのだ。
「先輩、私ね。先輩のその瞳の翡翠が、幸せの色だと思うんです。あぁ幸せだなぁって思ったときに、私の視界は鮮やかになってきらきらするんですけど、一番強く光る色は先輩の瞳の色。綺麗な綺麗な、翡翠色なんです」 「そうか……」 「苦しい時も、辛い時も。それから淋しい時も。その色を見るだけで、どうにかなる気がするんです。だから先輩、もうそんなこと言わないで下さい。私の幸せの色なんですから」 「幸せ、か」 「はい。私の、幸せなんです」
真弘の瞳を見るだけで、煌めく木々の若葉を見るだけで、それは幸せ色なのだ。
11.1225
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