こんなにも人を愛して、こんなにも愛しいと呟いて、こんなにも泣いたのは初めてではないか。

 真っ白な一室。つんと鼻を刺すアルコール臭。彼女と私しかいないこの部屋で、朦朧とする意識の中いやに冷静に私は考えた。
 目の下がひりひりと小さく痛む。


 今まで何度この部屋に来ただろうか。
 ここ数十年の間に器具や医療は進歩したが、自分の身体は老いもしない。

 同じような場面にも何度も逢った。道路で息を引き取る者も、水中でもがくようにして逝った者もいたが、やはり最後はここに来ていた。



 そうだ、その時もそうだった。同じように愛して、愛しいと呟いて、泣いたのだ。


 この今目の前にいる彼女に抱いている想いもあのときの彼女らと同じだ。

 玩具が壊れたときのそれにちかかった。それもあまり興味の無かった玩具だが、自分のものだから悲しい。その感じだ。



 ああ、また愛せなかったな。

 冷たくさめていくこのモノを見下ろして、どうして自分は本当に人を愛せないのだろうと思いまた泣いた。





(100703)愚問
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