白の携帯を耳にあて、今日も変わらぬ機械音を聞く。
三回目のコール。はい、と言う声が聞こえると私の心はゆったりとした安心感に包まれた。
「啓助おひさー」
<ったく。またお前かよ>言葉の棘とは裏腹に楽しそうに笑ってくれる彼の声。その変わらない声を感じたいためにまた、今日も電話をかけたのだ。
<で、今日はどうしたんだよ、唯>
「あはは。何時も通りですよー。暇だったから電話してみました」
<またかよ!>
これもまた、毎日変わらない会話。会話の内容はくだらない事ばかり。高校に入学したてのころお互いがやった失敗談とか、会社のあの上司は絶対かつらをつけているとか。
本当にくだらないことばかりだけども私にはこの時間がとても楽しく、幸せに感じられるのだ。
<あ! そう言えば俺、この前会った子にメアド聞かれたんだけど!>嬉しそうにトーンの上がる声。<これは、きたんじゃね?>
「きたんじゃないですかー? 啓助君」毎度の事に少し羨ましさとなにかモヤモヤした気持ちを感じながらも私は言う。
「で、今回の子はどんな感じだった?」<それが、すげえ可愛いの!>また一段と声のトーンが上がる。<唯にも見せてあげたいくらい! あ、写メ送ろうか?>
「いや、私は良いよ。啓助が言うくらいだから凄く可愛いのは想像ついたし、明日も仕事早いしね」
これ以上話しを続けるとまた煩くなりそうだなと思った私は、軽くながし電話を切った。
はあ。と一息つく。
そう言えば、啓助がメアド聞かれたくらいであんなにテンション上がるなんて珍しい。どんな人たっけ? 啓介の最後の彼女。そう考えながら私は立ち窓を開け、ベランダに行った。
上を見上げると漆黒の空。
星なんて全く見えない息苦しいだけの景色。
下には怪しく光るネオンの輝き。車のライト。人の声。
いつからか空と地上は逆転して、星ぼしの輝きは下に落ちてきたのではないのかと思ってしまう。
私はいつからこんなに弱くなったのだろう。
そう思い、長い長い息を漆黒のやみにはいた。
好きなんだ。
彼は気づいてくれないけど。
それでも、傍にいれるのなら言いと願っていたけど。
好きなんだよ。
数日後。私の携帯が彼だけの色を光らせた。
この電話は私にとってどんなものになるのだろう。
今はただ願うだけ。
call。call。
私の思いよ伝わって。
私はゆっくりと携帯に手を伸ばした。
(091223)